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【2010年4月】

 一輪草 群で咲いています。

 

 読売新聞 「うつ病」健診でチェック 11年度から政府方針 企業指導も強化

 
政府は職場でのストレス等を原因とした「うつ病」など精神疾患の広がりに対処するため、企業や事業所が実施する健康診断に精神疾患を早期に発見するための項目を盛り込む方針を固めた。また、企業などのメンタルヘルス(精神衛生)対策を指導する国の専門職員の研修時間を2倍以上に増やすなど、精神疾患対策に本格的に取り組む。
 対策は厚生労働省の「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」が今月中にもまとめる提言に盛り込まれる予定で、政府は総合的な自殺防止対策の一環として2011年度からの実施を目指す。
 企業の健康診断は、労働安全衛生法で実施を義務付けられており、身長や体重の測定、血糖検査、尿検査など実施すべき項目を労働安全衛生規則で定めている。政府は同規則などを改正して、精神疾患のチェックを項目として盛り込む考えだ。長妻厚生労働相は19日、都内の労働基準監督署などを視察後、「何週間も何日も眠れないなど、そういった項目を医師が聞いて、「うつ病」をチェックできないか検討したい」と述べた。
 また、企業などの精神衛生対策を指導するため、都道府県労働局や労基署に配置されている、国の専門職員「労働安全専門官」の研修プログラムの改定は今年6月から実施する。これまで年1回4時間半だった精神衛生関係の講義を10時間半に増やす。
 厚生労働省によると、仕事のストレスが原因で「うつ病」などになったとして労災認定を受けた人は、2008年度に過去最多の269人を記録し、5年前の108人に比べて約2・5倍となった。労災の申請数も、08年度は927人と、5年前の438人から倍増している。

【2009年12月】
 栄養素 規則正しい食生活を

 不規則で偏った食生活は、心や身体の健康を損なわせるだけでなく、ストレス刺激に対する抵抗力を低下させる。したがって、ストレス状況に負けない心身をつくるためには炭水化物、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどのさまざまな栄養素をバランスよく組み合わせた食事を規則正しく取ることが大切である。
 さらに心身の健康のためには、リラックスしてゆったりと楽しみながら食事を取ることが重要である。この稿では、ストレス状況に強い心身をつくる栄養素、特にビタミンB1、ヒダミンC、カルシウムについて概説する。
 ストレス状況に陥ると、体内では多量のビタミンB1が消費される。そして、このビタミンB1が不足すると、イライラ感、不眠、めまい、記憶力の低下などの症状が現れる。したがってストレス刺激に暴露されそうになった時には、ビタミンB1を十分に摂取することが大切である。ビタミンB1を多く含む食品としては豚ヒレ肉、玄米、しいたけ、鶏レバー、牛乳、ウナギのかば焼き、生そばなどがある。
 また生体は、ストレス刺激にさらされると副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を分泌し、全身の新陳代謝を促進し、抵抗力を高めようとする。そして、この副腎皮質ホルモンの生合成には、ビタミンCが必要不可欠な栄養素である。したがってストレス状況では、ビタミンCは多量に消費されるので、心身の健康を保つためには、積極的に摂取してほしい栄養素の一つである。ビタミンCを多く含む食品はイチゴ、緑茶、ジャガ芋、ネーブルオレンジ、柿、キウイ、菜の花などがある。
 カルシウムは、一般的に骨や歯の構成栄養素というイメージが強いが、精神的興奮を鎮める作用もある。そのためカルシウムは「天然の精神安定剤」とか、「心の安定剤」などと呼ばれることもある。したがって、カルシウムが不足するとイライラ感や不眠などが生じやすくなる。日本人にとって、このカルシウムは不足しがちな栄養素であることから、ストレス対策の面からも意識的に摂取することが必要である。カルシウムを多く含む食品には、牛乳、チーズ、ヨーグルト、ひじき、豆腐、ワカザギ、干しエビなどがある。
 規則正しい食生活をして、ストレス社会を生き抜く健康な心身をつくりあげましょう。最後にこの1年間、ストレス解消術の稿をご愛読いただきありがとうございました。(武田 弘志・国際医療福祉大薬学部長)=終わり=

 

   心の森の銀世界

       雑木林

 

 抗うつ薬 相性のいい薬を探る

 代表的な心のストレス病にうつ病がある。うつ病では、日常生活での出来事に関係なく抑うつ状態が過度にかつ持続的に発現し、さらに食欲不振、不眠、体重減少などの身体症状も合併することが多々ある。このような症状の治療や改善には、抗うつ薬を用いた薬物療法が適用されることが多い。この稿では、治療に繁用されている抗うつ薬を取り上げ、その特徴について概説する。
 抗うつ薬は、抑うつ気分や意欲の低下を改善したり、不安感やイライラ感を鎮める作用を持つ。現在、使用されている抗うつ薬には、複素環系抗うつ薬(三環系、四環系)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)などがある。そして、患者の体質や症状に合ったものが選択され用いられている。
 代表的な三環系うつ薬には、イミプラミン(商品名・トフラニール)アミトリプチリン(トリプタノール)がある。イミプラミンは、最初に抗うつ効果が立証された薬物で、気がめいり、落ち込んでいる症状に効果がある。また、アミトリプチリンは、不安感や強い抑うつ状態に効果的であるといわれている。
 四環系うつ薬には、気がめいり、不安感が強い場合に有効なマプロチリン(ルジオミール)や不安感、イライラ感、不眠などを緩和するのに効果的なミアンセリン(テトラミド)などがある。
 これらの三環系と四環系の抗うつ薬には、口渇、便秘、排尿障害、起立性低血圧、鎮静、眠気、めまいなどの多様な副作用がある。そして、これらの薬物の抗うつ効果を得るためには、最低でも1~2週間の投薬が必要であるのに対して、副作用は、投薬初期から発現する特徴があるので、注意が必要である。
 さらに、最近良く処方されるSSRIには、うつ病、強迫性障害、社会不安障害に効果があるフルボキサミン(ルポックス、デプロメール)、うつ病、パニック障害、強迫性障害に有効なパロキセチン(パキシル)、うつ病とパニック障害に有効なセルトラリン(ジェイゾロフト)がある。そして、SNRIには、うつ病、抑うつ状態に効果があるミルナシプラン(トレドミン)がある。SSRIおよびSNRIも、抗うつ効果を得るには長期の投薬が必用である。
 また、SSRIには、悪心、嘔吐、SNRIには口渇、便秘、めまいなどの副作用があるが、複素環系抗うつ薬よりは副作用が少ないので繁用されている。治療の際には、抗うつ薬は患者の症状や体質に合ったものが選ばれるが、初めから最適なものとは限らない。従って、専門医の指示に従って、焦らず、相性のいい薬を探っていくことも大切である。(武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 抗不安薬 副作用注意、長期服用も

 代表的なストレス病である神経症、うつ病、心身症の治療には、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などを駆使する薬物療法と心理療法が並行して適用されることが一般的である。さらに心身症の治療の場合には、それぞれの身体的な病変に対する対症療法も同時に行われる。この稿では、ストレス病の薬物療法において、中心的な役割を担う薬物の一つである抗不安薬に焦点をあてて解説する。
 抗不安薬は、不安、緊張、焦りなどを和らげ、それに伴う身体症状をも改善する作用を持つ。古くはアルコール、バルビツール酸、メブロバメートなどが抗不安作用を有する薬物として使用されてきたが、現在ではベンゾジアゼビン(BZD)系抗不安薬やセロトニン系抗不安薬が繁用されている。
 BZD系抗不安薬は、抗不安作用のほかに鎮静作用、睡眠導入作用、けいれん作用、筋弛緩作用などを併せ持つものが多いことから、それぞれの治療目的に応じて幅広く用いられている。例えば、神経症、うつ病、心身症などにみられる不安、緊張、イライラ感の緩和、不眠の治療、心身症の身体症状の緩和などに適用され、その有効性が認められている。
 またこの系統の薬物は、眠気、行動力の低下、運動失調、記憶障害(健忘)などの副作用を引き起こすことがある。さらに長期間の服用により、依存性や耐性が形成される場合もある。
 代表的なBZD系抗不安薬には、エチゾラム(商品名・デバス)クロチアゼム(リーゼ)アルプラゾラム(コンスタン)ロラゼバム(ワイパックス)オキサゾラム(セレナール)ジアゼバム(セルシン)ロフラゼブ酸エチル(メイラックス)などがある。またBZD系薬物の中でも、睡眠効果の強いものは睡眠薬として用いられている。その代表的な薬物にはトリアゾラム(ハルシオン)プロチゾム(レンドルミン)などがある。
 そのほかセロトニン系抗不安薬として繁用されているタンドスピロン(セディール)がある。この薬物は、心身症の身体症状、抑うつ、不安、焦燥、睡眠障害や神経症における抑うつ、恐怖などの緩和のために適用されている。またこの薬物は、BZD系抗不安薬に見られる副作用は少ないが、治療効果を得るためには長期の服用が必要である。ストレス病の症状緩和のために抗不安薬を服用する際には、必ず専門医の指示に従うことが大切です。
 (武田 弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 

 サーファーもいました 元気ですね

  山の上は雪化粧も始まり

 

 生活に「7カ条」を 快適な睡眠
 ストレス状況に陥った心身を最も効果的に癒すには休養することが重要である。そして、休養するための究極の手段は、睡眠をとることである。この稿では、ストレス解消法としての睡眠を取り上げ、厚生労働省がまとめた健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)の「健康づくりのための睡眠指針~快適な睡眠のための7カ条」を紹介し、解説する。
 1【快適な睡眠でいきいき健康生活】快適な睡眠は、疲労の回復やストレスの解消、さらに事故の防止につながる。逆に睡眠に問題があると、高血圧、心臓病、脳卒中などに罹患するリスクが高まる。そして、定期的な運動や規則正しいい食事などの生活習慣は、快適な睡眠をもたらすことが明らかにされている。
 2【睡眠は人それぞれ、元気ハツラツが快適な睡眠のバロメーター】自分に合った睡眠時間があり、8時間にこだわらないことが大切である。寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減るので注意が必要である。
 3【快適な睡眠は、自らつくり出す】夕食後のカフェイン摂取は、寝付きを悪くする。さらに睡眠薬代わりの寝酒は、睡眠の質を悪くすることがある。また快適な睡眠を得るためには、自分にあった寝具の工夫や不快な音、光を防ぐ環境づくりが必要である。
 4【寝る前に自分なりのリラックス法を、眠ろうとする意気込みが頭をさえさせる】軽い読書や音楽、香り、ストレッチなどでリラックスする。そして、自然に眠くなってから寝床に入ると良い。眠ろうと意気込むと、かえって逆効果になる。ぬるめの風呂に入って寝付きを良くするのも一つの手段である。
 5【目が覚めたら日光を取り入れて、体内時計をスイッチオン】毎日同じ時刻に起床する習慣をつけることが大切である。また朝方の生活は、早寝より早起きから始めると良い。
 6【午後の眠気をやり過ごす】短い昼寝でリフレッシュしよう。昼寝をするなら午後3時前の20~30分が適当といわれている。また長い昼寝は、すっきりするどころかかえって頭が重くなったり、ぼんやりのもとになる。
 7【睡眠障害は専門家に相談】睡眠障害は、身体や心の病気のサインとして現れることが多々ある。寝付けない、熟睡感がない、十分に眠っても日中の眠気が強いなどの時は注意が必要である。また激しいいびき、脚のむずむず感、歯ぎしりなども要注意である。ストレスを解消し健康な生活をおくるためには、快適な睡眠が欠かせない。そのために、ぜひ7カ条を日常の生活に取り入れてはいかがでしょうか。(武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 漢方薬 抑肝散は認知症にも
 
漢方医学では、生命活動に必要なエネルギーを「気」と表現している。そして、この「気」がストレス刺激などの影響で低下したり亢進したりすることで、「気鬱」、「気虚」、あるいは「気逆」などの症状が生じると考えられている。
 漢方医学でいう「気鬱」とは抑うつ気分、頭が重いなどの自律神経症状に該当し、また、「気虚」は疲れやすい、気力の低下などの全身症状、そして「気逆」は動悸、のぼせ、不安、発汗などの発作的症状であると考えてよいでしょう。この稿では、これらのストレス症状の緩和あるいは治療に繁用されている代表的な漢方薬とその効能について解説する。
 「加味逍遥散」は古来、三大婦人漢方薬の一つとして知られている。この漢方薬は、体質が比較的虚弱な人で、疲れやすく、不安、不眠、イライラ感などの精神神経症状が認められる場合に、その症状緩和に適用される。また、女性の更年期障害に伴うさまざまな不定愁訴や自律神経失調症の症状緩和に繁用されている。
 「半夏厚朴湯」は、体力が普通かそれ以下の人で、気分がふさぎがちで、ときに動悸やめまいなどの神経症的傾向があり、のどが詰まるような感じがある場合に、その治療に用いられている。
 「抑肝散」は子供の夜泣き・疳の虫といったイライラ感や精神的興奮を抑える目的で適用されてきた漢方薬である。また近年では、認知症に伴う妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、睡眠障害などの周辺症状の緩和にも用いられている。
 一般的には、普通程度の体力の人が、神経が過敏で興奮しやすく怒りっぽい、さらにイライラ感や不眠などの精神神経症状がある場合に適用される。
 「柴胡加竜骨牡砺湯」は、比較的体力がある人で、不安、不眠、イライラ感などの精神神経症状がある場合に用いられる。特に、発作性に不安感や動悸などが認められる時にいいと言われている。また、最近、この漢方薬は、男性更年期障害における身体症状、精神症状および性機能症状などの治療に応用されている。
 漢方医学では、同病異治という考えに基づいて、同じストレス状況下で、同じストレス病が発症したとしても、その人の身体所見や体質、ひいてはライフスタイルなども考慮した上で診断し、適切な漢方薬の処方を組み立てる。したがって漢方薬を用いる際には、ぜひ漢方薬の専門家(専門医、薬剤師など)に相談することをお勧めします。 (武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)
 

   銀杏並木通り

【2009年11月】

 心の森キャンプ場の朝日

 

 温浴療法 罹患予防、症状緩和も

 温浴療法には、心身をリラックスさせ、緊張をほぐすことにより、ストレス病への罹患を予防したり病的症状を緩和する効果があることが知られている。そのため、さまざまな入浴法が考案され、ストレス症状の緩和に利用されている。この稿では、温浴療法の中でも、特に繁用されている半身浴と温冷交代浴について解説する。
 半身浴は、心肺機能にあまり負担をかけずに下半身の血液を水圧で心臓にもどす効果がある。また比較的長い時間、入浴していても疲労が少ない。一般的にも血液が体内を一巡するには約1分かかる。したがって半身浴で20~30分間お湯につかると、加温された血液が体内を20~30回巡ることになる。その結果、身体の内側から温熱効果で代謝が促進される。お湯につかることで、沈静効果や筋肉の弛緩効果が生じることから、ストレス刺激が惹起する不眠や肩こりなどに有効である。
 それでは、半身浴を行ってみよう。
 まず@湯船のお湯の温度を39度プラスマイナス1度(夏は38度、冬は40度)にするかAかけ湯をする(ぬるめのシャワーを全身にかける)B湯船に20~30分間はいる(へその少し上あたりまでお湯につかり、時々、肩にお湯をかけながら汗ばむ程度まで入る。そして肩の上下運動や、腹部のマッサージをするとなお効果的である)C湯船から出て、身体や髪を洗いながら休憩するD再び湯船に入る(物足りなければお湯の温度を2~3度上げて3分間程度つかる)
 次に、冷えや更年期症状の緩和に有効である温冷交代浴についてふれる。この入浴法では、温冷刺激が、血管の収縮・拡張の促進や心筋の収縮力を強めることにより血液循環を改善し、血行不良や冷えを治す。さらに、自律神経機能のバランスを整えたり、新陳代謝を促進したりするともいわれている。
 温冷交代浴は、次の手順で行う。@湯船のお湯の温度を43度にするAかけ湯とかぶり湯をする(ぬるめのシャワーを全身にかけた後に、湯船のお湯と同温のお湯を足からだんだんと上にかけていき、身体をお湯の温度に慣らすB湯船に3分間つかるC湯船から出て、水を手や足に10秒間かける。そしてBとCを5回繰り返す。但し熱いお湯にはリラックス効果が少ないので、高温浴は朝や日中にして、夜はぬるいお湯での入浴の方が良い。
 症状や体調を考え、正しい入浴方法を守り温浴効果を引き出しましょう。さらに、入浴法をひと工夫して自分にあったリラックス法を見つけてみましょう。
 (武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 行動療法 身に付いた不安、解消

 不安や恐怖の原因になっているのは、誤った学習によって身に付いた行動である場合が多い。したがって学習の誤りを見つけ出し、行動を修正することで、不安や恐怖などの症状を改善することが可能である。行動療法は、学習によって身に付いた間違った思い込みや習慣などを正す心理療法の一つとして繁用されている。本稿では、この行動療法を取り上げ、解説する。
 行動療法の代表的なものの一つに、系統的脱感作法がある。この方法は、不安や恐怖などが強い場合に、より有効な方法として知られている。系統的脱感作法では、まず自律訓練法(詳細は前稿で解説)などで、心身をリラックスした状態にし、不安や恐怖を感じる場面を、弱い方から強い方へ段階的に思い浮かばせる。次に不安や恐怖を感じたら、その都度、自律訓練法などで心身をリラックスさせる。これを繰り返して行い、克服できる不安や恐怖のレベルを少しずつ上げ、次第に自身がつくようにする。そして最終的に、現実の不安や恐怖を乗り越えられるように導く。
 それでは、満員の急行電車に乗ること(ストレス状況)に不安を感じる人を例に挙げ、系統的脱感作法による実際の緩和手順を説明する。初めに不安を感じるストレス状況を分類、整理して、その場面やレベルを想定して、弱い方から強い方に順を並べて不安階層表を作成させる。例えば駅の改札を通る(自覚的不安度10点)、駅のホームに立つ(20点)、すいている各駅停車の電車に付き添いの人と一緒に乗る(30点)、…各駅停車の満員電車に一人で乗る(80点)、急行の満員電車に付き添いの人と一緒に乗る(90点)、急行の満員電車に一人で乗る(100点)のような階層表を作らせる。
 次に自律訓練法などのリラックス法を習得させる。そして脱感作の手順に入る。≪@自律訓練法で心身をリラックスさせるA駅の改札を通る場面(自覚的不安度10点)をできるだけ具体的に思い浮かばさせる(作成した不安階層表の中で最も自覚的不安度の弱い場面から始める)B不安を感じるごとに自律訓練法で心身をリラックスさせ、不安状態を打ち消すC10点の行動を思い浮かべても不安を感じなくなったら、次に、D20点の行動を同じ手順で思い浮かばさせる…≫
 これを繰り返して、少しずつ不安を克服していき、100点の行動までたどり着くように導く。そして実際に階層表の行動をとってみて、同じように100点の行動にたどり着けたら、不安を克服したと判断する。このように、イメージを作り出す不安は、リラックスすることにより取り除くことができる。
 (武田 弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 

    雑木林の紅葉

   ドーダンツツジの赤

 

 認知療法 物事を柔軟に考える

 ストレス病の中でも、うつ病や不安障害などの「心の病」に罹患しやすい人は、何事も否定的・悲観的にとらえる傾向にある。このことから「心の病」の予防や治療には、種々の心理療法が活用されている。この稿では、代表的な心理療法の一つである認知療法を紹介し、概説する。
 心身が疲弊し、心のストレス病を発症する人には認知(物事の捕えかた受け止め方)にゆがみがある場合が多々ある。すなわち、「心の病」に罹患しやすい人は、考え方がいったんマイナス方向に向かうと、どんどん落ち込んでいくタイプの人が多い。例えば、仕事に失敗→自分は何をやってもだめな人間だ→次も、きっとうまくいかない→実力がだせない→また、失敗する…のように、負のスパイラルにはまりマイナス思考が止まらなくなり、そして失敗のイメージがさらに失敗を呼び、その結果ますます自信を喪失していく思考パターンをもつタイプの人である。
 このようなゆがんだ思考をもつ人の考え方を切り替えさせ、「心の病」への罹患を予防あるいは治療するために認知療法が用いられている。この療法は、専門医との面接、対話を通して、認知のゆがみを自覚させることから始まり、考え方を広げ、柔軟性を身に付けさせていく方法である。
 それでは具体的な例を挙げ認知療法を解説してみよう。例えば「自分に関係のないことまで責任を感じ苦しむ」「一度悪いことが起きると、その後のすべてのことがうまくいかないと思い込む」「○○すべきとの考えにはまりこんで、自分や他人を批判する」などと考えがちな人に、「自分の考えに根拠はあるのだろうか?」「違う見方はできないのだろうか?」など、そこでちょっと立ち止まって考えてみるように誘導する。そして「他人は他人。自分は自分。自分はそこまで影響力を持っていないので責任はない」「うまくいかないと決まったわけじゃない」「○○すべきなんて誰が決めた?」のように柔軟に考えることができるように修正する療法である。
 一つの見方、考え方にこだわる性格は、「心の病」に罹患しやすい人の特徴である。まずは物事にはいろいろな見方やとらえ方があることを知って、少しずつ柔軟な発想力を身に付け、ストレス状況に強い性格を作っていきましょう。
 (武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)

【2009年10月】
 自律訓練法 心身の緊張をほごす

 ストレス状況にさらされると著しい緊張状態に陥り、心身の不調を招く。このような状態が長く続くとストレス病に罹患するリスクが高まる。したがってストレス病を予防あるいは治療するためには、心身の緊張をほぐす"ワザ"を身に付けることが重要である。この稿では、心身のリラックス状態を作り出すために活用されている心理療法の一つである自律訓練法を取り上げ、概説する。
 自律訓練法とは、楽な姿勢をとり、一定の言葉を心の中で繰り返すことで、自己暗示をかけ、心身の緊張をほごす方法である。そして、この自律訓練法には、標準型自律訓練法、河野式自律訓練法、自己調整法などがある。ここでは、最も繁用されている標準型自己訓練法について、その実施手順を含めて具体的にふれてみる。それでは、次の手順で行ってみましょう。

 

  塩原のドウダンツツジ 良く紅葉した

     箒川のもみじ

 

 【1 始める準備をする】
 トイレを済ませ、靴を脱ぐか、スリッパなどに履き替える。ベルト、ネクタイ、メガネ、腕時計など体を締め付けるものをはずす。パジャマ、ジャージなどのなるべく楽な服装にする。初めは、静かで快適な場所を選ぶ。
 【2 基本姿勢をとる】
 腰かけ姿勢(いすに腰掛け、力を抜いて頭を自然に前へたれる。腕は自然におろし、手をひざに乗せる。足は肩幅くらいに開いて足の裏を床につける)、寄りかかり姿勢、あおむけ姿勢などのうち、どれかをとる。目と口は軽く閉じ、呼吸は自然にして意識を集中しやすくする。
 【3 イメージ力を高めて自己暗示をかける(「気持ちが落ち着いている」状態をイメージし、自己暗示の言葉を繰り返す)】
 軽く目を閉じて、ゆっくり深呼吸をしながら「気持ちが落ち着いている」状態をイメージする。リラックスしてきたら次の暗示の言葉を思い浮かべる。@右手が⇒左手が⇒両手が⇒右足が⇒左足が⇒両足が(の順に)重たいA(同じ順番で)温かいB心臓が静かに、規則正しく打っているC楽に呼吸しているD胃の辺り(おなか)が温かいE額が気持ちよく涼しい。
 【4 自己暗示をとく】
 両手を握ったり開いたりを5〜6回繰り返す。両腕の曲げ伸ばしを4〜5回繰り返す、目を閉じ、背伸びをしながら深呼吸して目を開く、などの動作をして自己暗示をとき自律訓練法を終える。
 自律訓練法を行うときは、初めは専門医や臨床心理士の指導を受け、徐々に自分一人で行うようにするとよいでしょう。
 一度身に付けてしまえば、いつでも、どこでもリラックス状態を作り出せるようになり、ストレス社会を生きるあなたにとって大きな力になるでしょう。
 (武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 ストレス解消術

 前稿では、職場環境や仕事内容の変化などが作り出すストレス症候群について解説した。引き続きこの稿では、家庭環境や家族のかかわりから生まれてきたストレス症候群を取り上げ解説する。さらに最近、しばしば話題になることがある「朝刊症候群」「ランチメート症候群」「ギャンブル依存症」「ピーターパン症候群」などについても概説する。
 家庭環境が発症の原因になるストレス症候群には「単身エレジー症候群」や「帰宅拒否症候群」などがある。「単身エレジー症候群」は、単身赴任による孤独感や遠く離れている家族の問題に悩み、精神的な疲労が蓄積して極端なストレス状況に陥り、それが病因となって抑うつの症状を示す疾患である。また「帰宅拒否症候群」とは家族とのかかわりが心の負担になり、どうしても家に帰れなくなる状態になることをいう。
 このストレス症候群は、昇進や昇給などで家族から過大に期待され、精神的に追い詰められてストレス状況に陥ってしまうことが原因であると考えられている。
 その他のストレス症候群の一つに「朝刊症候群」がある。この症候群は、毎日朝刊を読む習慣がある人が、ある日突然、読んだ内容が頭に入らず、読みたくなくなるなどの症状が現れる状態を示す。そしてこの症状は、うつ病の初期症状の一つであると考えられている。
 また「ランチメート症候群」とは、一人で昼食をとることに強い不安を感じる疾患である。そして、一人で昼食をとる姿を他人に見られることが恥ずかしいなどの考えに陥り、隠れて昼食をとるなどの行動を示す。
 「ギャンブル依存症」とは、パチンコ、競馬、競艇などのギャンブルにおぼれて、やめられなくなり、やめると身体的にも、精神的にも変調をきたす疾患である。最近、この依存症に罹患する女性が増えてきている。「ピーターパン症候群」は、若い人に見られるストレス症候群の一つである。この症候群に罹患すると、いつまでも大人になりたくないなどの願望が強く発現するために、責任感や決断力が持てず社会生活に適応できない症状を示す。
 最近、従来から知られているストレス病に加えて、さまざまなストレス症候群が数多く生み出されてきている。したがって、これらの症候群に対応する予防及び治療法の早急な構築が望まれる。
 (武田弘志・国際医療福祉大薬学部長)

 

  今年の茸狩りは全敗!

   バラ・ジュリア

 

 さまざまなストレス症候群
 生活環境の変化や価値観の多様化などからさまざまなストレス状況を作り出し、ストレス病の発症を助長している。ストレス病には、代表的な「うつ病」、神経症、心身症に加えて、いわゆるストレス症候群と言われるさまざまな病的傾向の症状や疾患がある。職場環境が生み出した代表的なストレス症候群を取り上げて概説する。
 職場や仕事に関連したストレス状況が作り出すストレス症候群として、「昇進うつ病」「転勤うつ病」「出勤拒否症」「燃え尽き症候群」「慢性疲労症候群」などがある。
 「昇進うつ病」は、昇進による職場での人間関係や仕事内容の変化が心身に大きな負担となり、職場環境への適応ができなくなる。そして、家族や周囲の人々から昇進についてのお祝いを言われたり、喜ばれることが心の苦痛となって、追い込まれしまい抑うつ状態に陥る疾患である。
 また「転勤うつ病」は、異動や配置転換などの職場環境の変化が、精神的ストレス状況を生み出し、決断力や思考力の低下をもたらして抑うつなどの症状を現す。「出勤拒否症」は、人それぞれ誘発する原因に違いがあるが、出勤できなくなるという共通した状況におちいる。このストレス症候群は、出社困難症、出社恐怖症などの呼び方もある。症状としては、出勤しようとすると吐気がでたり、腹痛が起きたりする。
 「燃え尽き症候群」とは、仕事に生きがいを感じて一生懸命働いてきた人が、何かをきっかけに突然意欲を失って無気力になってしまう状態を言う。一般的に、まじめで有能、仕事以外に関心が持てないというような人に好発すると言われている。
 「慢性疲労症候群」は、元気で勢力的に仕事に取り組んでいた人が、突然にひどい疲労感を覚えて、いつまでも疲れがとれなくなる症状を示す。そして、この症候群は、日常生活に支障が出るほど強い倦怠感が続いたり、再発を何度も繰り返す特徴がある。神経質で几帳面な性格のひとが罹患しやすいことが知られている。
 また、職場と家族の両方からスポイルされ、疎外感に悩み、心の安定を崩してしまう状態に陥る「新サンドイッチ症候群」もストレス症候群の一つである。このように、職場環境の変化などが生み出すさまざまな新しいストレス病が、最近、多発していることを知って欲しい。
 (武田弘志・国際医療福祉大学薬学部長)

【2009年6月】

     紫陽花

 

 職場のメンタルヘルス対策
 画一的な対応ではなくうつ病のタイプに合わせた対応が大切
 「U」メンタルヘルス不全者への対応
 
前回は、メンタルヘルス不全による休職者の復職について取り上げましたが、簡単に要点を復習しておきましょう。
 @ 復職は、病気が治ったというゴールではなく、新たなステージのスタートである。
 A 復職可能条件は、「病気が治った」のではなく、「改善している」ことである。
 B したがって、復職時は心身に負担の軽い業務を少しずつ始めることが必要だが、いつまでも短時間勤務をつづけることは良い結果を招かないことがある。
 C 本人から上司に「復職可能診断書」を提出することから復職への流れが始まる。
 D 再休職にならないためにも、サポートする職場のためにも「復職支援マニュアル」は必要。
 E 復職する前に、産業医や看護職、職場上司が十分な情報収集をして、復職時期や業務の検討、支援プランの作成をする。
 F 復職者を受け入れる職場は、腫れ物に触るような態度ではなく、ごく普通に接するほうが良い。
 G 復職して3か月が過ぎた頃が再燃・再発の危険が高い。

 (3)再休職(リピーター)対策
 休職者の半数がリピーターとのデータも
 
メンタルヘルス不全による休職者の半数近く(それ以上のこともある)が再休職者(リピーター)である、というデータが示すように、復職したものの、数ヶ月後に再び休職者になることが非常に多く、なかには、休職と復職を何回も繰り返すケースもあります。
 今回は、復職がうまくいかない原因はどこにあるのか?休職と復職を繰り返す場合はどのような対応をしたらよいのか?についてのお話ですが、「再休職」のなかでも、よくある、スタンダードタイプについては、前回「メランコリー親和型うつ病は再発にくれぐれも注意を」で取り上げました。
 真面目で責任感の強いタイプは、焦りや周囲への気兼ねから、充分に回復せずに「フライング復職」をしてしまい、病状が悪化して再休職になる、という話です。
 このようなスタンダードタイプの再休職を防止するには、休職・復職のマニュアル作成、充分な回復後の復職と適切な受け入れなどが必要です。
 同じ対応で場合によっては全く逆の結果になることも
 厚生労働省が先頃、「職場復職支援の手引き」の改訂版を作成したのも、再休職を少しでも減らすためです。
 このようなスタンダードタイプ対策が全国に浸透すれば、リピーターの数は半分くらいは減るだろうと思います。
 では、残りの半分は…?
 おそらく、人事担当者や職場の管理職の方は、その答えがお分かりでしょう。
 制度を整えても、出来る限りの配慮をしても、なかなか再休職者はゼロになりません。
 むしろ、この2,3年で増えてしまったという職場もあると思います。
 復職がうまくいかない要因は単純ではなく、復職支援マニュアルどおりにしていれば大丈夫というものでもありませんし、場合によっては同じ対応が全く逆の結果になることもあります。
 

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 たとえば、こんなケースがあります。
 体力面で復職は無理と訴えるが外出や買い物は可能
 ケース1
 36歳のTさんはおとなしい印象ですが、仕事はまじめにキッチリやるので、課長は彼の能力と将来性を評価して、半年前から主任業務を任せています。
 ところが、Tさんは最近、体調不良で急に休むことが多くなり、心配した課長が聞くと、「動悸や頭痛がするので、病院で検査をしている」と具合悪そうに答えます。
 検査の結果、どこも異常なかったのですが、症状が良くならないことを心配した課長が産業医に相談したところ、「うつ病の初期は身体の症状が多いから」と、メンタルクリニックを紹介してくれました。
 早速、受信したTさんは「抑うつ症状のため、1か月程度の休職と加療が必要」という診断書を提出し、翌週から休職になりました。
 求職中も課長にはこまめに連絡してきますが、体調は良くならないため、休職延長となりました。
 翌月には「かなり元気になりました」という連絡があったものの、面談すると、「今の状態で仕事に戻るのは、体力面での不安がある」と復職の意思はありません。
 自宅近くで自転車に乗ったり、スーパーでよく見かけるという情報もありますが、報告では「よくならないので、別のクリニックに通院しているが、クスリの副作用があるので、復職は無理です」と言います。
 半年後に復職した時は、無理をさせてはいけないという配慮で1か月間は半日勤務とし、その後も3時までの短縮勤務をつづけています。しかし、週の後半は休むことが多く、結局、復職して1年後に再休職となりました。
 彼に期待していた課長はがっかりしただけでなく、幹部からは管理責任能力を問われ、部下は「ずる休みですよね…」とウワサをし、窮地に立っています。でも、当のTさんは退職するつもりはなく、傷病手当金の書類などはきっちり届けてきます。

 病気からの脱却には弱点を認め気を楽にして生きる姿勢を学ぶ
 
課長さんの対応は、部下の体調管理、充分な休職、復職時の負担軽減など、どれをとっても「職場のメンタルヘルス対策」的には全く問題なさそうですし、Tさんも元は優秀で真面目な社員だったようです。
 では、どうして、このようなことになってしまったのでしょうか。
 真面目な完璧主義のがんばりやで心配症でプライドの高いTさんは、「こなせている」うちは問題ないのですが、昇進を必要以上に意識することで負担感が増し、「こなせなく」なってしまいます。
 そんな自分を認められずに、無意識に症状を作って、「自分は病気なのだから、仕方ない」と逃げ込むことで自分を守るのです。
 おそらく、最初のクリニックで「病気に逃げ込んでいるのではないか」と指摘され、それを認めたくないので、主治医を替えた…と思われます。
 Tさんが病気から脱却するには、自分の弱点を認め、もっと気を楽にもって生きる姿勢を学ぶことでしょう。職場対応としては、「当人の言うがまま」を通し過ぎた感がありますが、今のご時世ではやむを得ないでしょう。
 もう一例、最近増えているケースを紹介します。
 新しい上司と度々意見が衝突して、心身の不調が出現する
 ケース2
 
Kさん(32歳)は前向きな発言をするしっかりした感じのエンジニアです。
 会社の方針で職場が統合されて上司や同僚は異動し、Kさんは新しい上司の下で業務を担当することになりました。
 今まで培ってきた方法を主張するKさんは、方針変更を指示する上司と、度々、意見が衝突します。
 ある日のこと、工場の健康相談室に突然現れたKさんは「もう、限界です。2ヶ月くらい前から、朝、吐き気がして何も食べられないし、夜は全然眠れなくて…、でも、がまんしてきたのですが、先週から、会社にきて仕事をする気になれません。頭痛もするし、昨日は胸が苦しかったので、これはあぶないな、と思いました。」と、目をうるませて、思いつめた表情で話します。
 相談室の保健師はじっくりと話をきいてから、人事課長に相談し。Kさんを近くのクリニックにつれていきました。
 精神安定剤をもらって帰宅するKさんの上司には私から体調が悪いことを伝えておきます」というと、ほっとした表情を見せました。
 異動を告げると"あの上司の声を聞かなくてすむ"とKさん
 人事課長がその上司に話を聞くと意外そうな表情で「別に彼ともめていたということはないです。確かに、彼は自分の意見をはっきり言いますが、それをとがめる気はないです。そんなに悩んでいたとはわかりませんでした」
 「とくに最近、負担が増えたことはありませんか?」
 「ずっと指導してもらった上司もいないし、人数も半分になったのだから大変でしょうが、どこも同じような事情でしょう。先週、仕事の進渉状況の報告を出すように言いましたが、まだ提出していないので、注意しました。あれがいけなかったのかな?」と、首をかしげています。
 Kさんの深刻そうな様子との温度差に、今度は、人事課長が首をかしげました。
 「責任逃れで、わざととぼけているようにも見えないし…?」
 その後、Kさんは本格的に休職となりましたが、3か月たっても、症状はよくも悪くもなりません。クスリのおかげで睡眠や食欲は回復していますが、新聞や本を読もうとすると頭痛や吐き気がおきるので、復職のめどがたちません。
 困った部長と人事課長が相談して、全く別の職場に異動させることにしました。
 それを聞いたKさんの「それも不安だけど、以前から知っている人が多いし、あの上司の声を聞かなくてもすむのが何より安心です」という言葉を聞いた二人は「子供みたいですね…」とため息をつきました。
 つい、説教をしてしまった人事課長と部長
 
ところが、新しい職場に復職したKさんは、その後もときどき、頭痛や腹痛を訴えては遅刻や早退をし、3ヶ月後に再び休職しました。
 しかし、今度は人事課長も部長もあわてずに、じっくりと話を聞いた後、「気に食わない上司の文句をきくことも、興味のない仕事をやることも含めて、会社で仕事をするということで、それも給料のうちなんだよ。私だって、与えられた仕事がいやな時もあるし、きらいなお客に愛想を言わなければいけないこともあるけど、それも仕事だとおもってやるしかないよ」と、つい、説教をしてしまいました。
 翌週から復職したKさんは、ほとんど休むことなく勤務しています。ときどき、相談室の保健師が声をかけると、「調子良いというわけではないけど、いつまでも休んでいるわけにもいかないし、仕方ないから、なんとかやっています」と、苦笑いしながら答えます。
 職場の評価も悪くないのですが、人事課長は「今度はいつまでか…」とつぶやいています。
 

 真っ赤なバラ「クリスチャン・ディオール」

   山野草「シャジン」

 

 ケース1は自己愛型うつ病 ケース2はディスチミア型うつ病
 本稿をずっとお読みいただいている方は、この(ケース1)、(ケース2)について、「どこかで聞いたような話」と思われたかもしれません。
 本稿第1回で、職場で見られるメンタルヘルス不全の中身は多種多様で、うつ病にもいろいろなタイプがある、ことを紹介しました。
 その多様なうつ病のタイプは、
 @ メランコリー型うつ病
 A パフォーマンス型うつ病
 B 双極性うつ病
 C ディスチミア型うつ病
 D 自己愛型うつ病
 などに分類されていますが、(ケース1)は上記の「自己愛型うつ病」で、(ケース2)は「ディスチミア型うつ病」だと考えます。冒頭に、よくあるスタンダートタイプと呼んだのは、上記の「メランコリー型うつ病」と「パフォーマンス型うつ病」に相当します。
 つまり、うつ病のタイプによって症状や性格傾向に大きな違いがあるのですから、それに合わせた対応をしないと、復職した当人がつらい思いをしたり、受け入れ職場が困ることになります。
 ところが現実は、全部画一的な「うつ病の復職対応」をしているので、うまくいかないケースも出るのは無理ないことと言えましょう。
 どのタイプがもっとも判断しやすいのは復職の時
 「えー!職場のメンタルヘルスの講習会で習ったのですから…」皆様がお受けになった講習会の内容は、スタンダートバージョンの基本編で、今回の話は、まさに「上級編」の「タイプ別対応の仕方」なのです。
 「でも、そのタイプの見分けができないときは、どうするのですか?」私も、最初からその見分けができないときもあります。途中で、「そうだったのか!」と認識の変更をすることもありますので、皆様がその見分けをする必要はありません。でも、実は、その人がどのようなタイプなのか、もっとも判断しやすいのは、復職の時なので、今後はそういう目でみると今後の参考になると思います。
 メランコリー型やパフォーマンス型は、とにかく、早く復職することに熱心で、職場に戻ることにこだわります。復職してからも、周囲への気まずさや体調が良くならないことへ焦りを感じながら、一方では仕事への意欲を前面に出してきます。ですから、このタイプに対しては「まあまあ、焦らないで」と抑えること。「波があるけれど、必ず良くなるから、じっくり構えて行きましょう」と考えることが必要です。
 職場の就業規則に沿った対応が基本
 反対に、(ケース1)の「自己愛型うつ病」や、(ケース2)の「ディスチミア型うつ病」では、復職することに不熱心、というより延ばしたがる傾向があります。といって、会社をやめたいとか、やめてしまうこともなく、できることならば、いつまでも休職したいような印象さえ受けます。
 そして、いざ復職となっても、非常に慎重で、自分の体調のわずかな変化に敏感に反応し、心配します。復職後の業務についても積極性がなく、いつまでも負担のない状況に留まっていることを望みます。
 昨今は、職場でメンタルヘルス不全を発症したときの賠償責任問題が広く知られ、管理職は「下手なことを言ってはいけない」とビクビクしています。少しでも体調が悪いと言えば、「無理しなくていいから、休んで…」、「できるだけ負担を軽くして…」という対応を続けざるを得ないのが現状です。
 その結果、管理職だけでなく、同僚の業務量が増え、不公平感や不満がつのります。
 では、このタイプにはどのように対応したらよいのでしょうか。
 まず、慎重に観察、面談、聞き取り(本人だけでなく、周囲や家族にも)を重ねて、偏りのない全体像を見るようにします。そして、復職に向けてのやりとりのなかや復職後の経過中に「ずるずると休職モード」や「なあなあの短時間勤務モード」になりそうなとき、なってしまったときには、人事や労務、産業医、職場の上司、可能ならば法律の専門家とも相談して、方針を決めます。
 基本的には、それぞれの職場の就業規則に沿った対応を崩さないことです。規則内でできるだけのことはする…
 でもそれ以上はできない、ということを明確に伝えます。そのことを通院中の主治医にも丁重に伝えておくことを忘れないでください。
 しかし、諸事情があって、例外的対応をする場合もあるでしょう。そのときも上記関係者全員が協議し、認識し、職場全員にも事情と方針を伝えるべきでしょう。
 (ケース2)の場合は、たまたま悪い結果にはなりませんでしたが、個人的体験の説教は基本的にはしてはいけないことですので、ご注意ください。ただ、最近、増えているこれらのタイプの人は幼児的な発想から成長しないままのことが多いのは事実です。
 メンタル休職にリピーターが多い理由の何割かについて説明いたしました。理由がわかったからといって、すぐにリピーターが減るわけではありませんが、日頃、対策にアタマと心を痛めている職場管理者や人事担当者の無力感や落胆、責任感「やりきれなさ」の軽減にはなると思います。
 

【2009年5月】
 ●厚労省・精神障害等の業務上障害判断指針を改正
 心理的負荷の出来事に「いじめ」など追加
 厚生労働省は、業務による心理的負荷が原因で発症した精神障害やそれによる自殺の業務上判断についての判断指針「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平11.9.14 基発第544号)の一部を改正した。今回の改正では、心理的負荷の強度を評価する際に用いる評価表(判断指針の別表)について、業務の集中化やいじめなどによる心理的負荷に対応する内容とするため、具体的出来事として、「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」、「違法行為を強要された」など12項目を追加している。
 

 只見町の「ソバや」の庭

 さつきの植え込みも美しいです!

 

 同判断指針では、精神障害等(精神障害による自殺を含む)の業務上外は、精神障害の発病の有無、発病時期及び疾病名を明らかにしたうえで、(1)業務による心理的負荷、(2)業務以外の心理的負荷、(3)個体側要因(精神障害の既往歴)―――について評価し、これらと発病した精神障害との関連性について総合的に判断することとしている。
 また、業務上外の判断要件は、@対象疾病(原則として国際疾病分類第10回修正第X章「精神および行動の障害」に分類される精神障害)に該当する精神障害を発病していること、A対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、B業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと―――のいずれをも満たすことが必要とされている。
 そして、業務により心理的負荷の評価に関しては、精神障害発病前おおむね6か月の間に、当該精神障害の発病に関与したと考えられるどのような出来事があったか、その出来事に伴う変化はどのようなものであったかについて、「職場における心理的負荷評価表」(判断指針別表1)を用いて、負荷の強度を評価することになっている。
 今回の改正は、この評価表について、判断指針策定以降、労働環境の急激な変化などにより、業務の集中による心理的負荷、職場でのいじめによる心理的負荷など、新たな心理的負荷が生じる出来事が認識され、10年前に作った評価表に掲げられている「具体的出来事」への当てはめが困難な事案が増えているため行われたもの。
 改正内容は、評価表の「具体的出来事」に、@違法行為を強要されて、A自分の関係する仕事で多額の損失を出した、B達成困難なノルマが課された、C顧客や取引先から無理な注文を受けた、D研修、会議等の参加を強要された、E大きな説明会や公式の場での発表を強いられた、F上司が不在になることにより、その代行を任された、G早期退職制度の対象となった、H複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった、I同一事業場内での所属部署が統廃合された、J担当ではない業務として非正社員のマネージメント、教育を行った、Kひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた―――の12項目を追加している。
 また、この追加のほか、心理的負荷を適切に評価するための修正を7項目について行っている。さらに、業務以外の心理的負荷の強度を評価する際に用いる評価表(判断指針別表2)についても、新たな具体的出来事として、「親が重い病気やケガをした」を追加している。

 男鹿川と湯西川の交わる場所 鉄橋は野岩線

 

 労働基準広報 「労働スクランブル」
 バワハラ"うつ"発症は、労災認定
 〜叱ることは必要。だが教育か行き過ぎか悩ましい〜
 朝、私たちは職場に顔をだし、あいさつを交わすことから日常がはじまる。
 笑顔で、気持の良いあいさつは、心を和ませ、やる気を起こす。だが、あいさつしても、無視されると、あー、不快だ、と心が傷つき、一日、心穏やかではない。
 職務権限の度を超せば問題 職場の"いじめ"にどう向き合う
 会社では、1日8時間から10時間あるいはそれ以上の時間、上司や同僚、後輩、出先での営業など、人との関わりのなかで仕事に取り組んでいる。意思の疎通ができていれば、心も弾み、仕事がはかどる。だが、イヤな奴(?)と感じる上司や同僚、苦情の多い営業先では、心の葛藤に悩まされ、ストレスが重なって、仕事が思うようにはかどらない。
 グローバル化の進展で、厳しい企業間競争が繰り広げられ、ノルマ漬け、超長時間労働の連続だ。その一方で、リストラが蔓延し、雇用の現場は破壊され、職場の空洞化、ギスギスした職場が増えるばかり。
 学校でのいじめにはじまって、職場でのいじめ、上司からの暴言などで、心が傷つくケースがここのところ目立つ。そこには、何があるというのか。人間不信やゆとりのなさ、管理能力の不足、長時間労働で疲れ切った頭で処理できず、他人に当たり散らす上司など、様々だ。
 働き盛りを襲う心の病。職場での職務権限を超え、想像を絶する言葉の暴力―パワーハラスメント(パワハラ)で、うつ病を発症、休職、退職あるいは精神的疾患を患い、労災認定を求めるなど、厳しい企業競争の下で、働く現場が疲弊してきている現実に、企業労使は、どう向き合うべきなのか。重い今日的課題である。

 いじめによる精神障害を認定 地裁・高裁・審査会で相次ぐ
 そうした中、ここ1年半の間に、東京地裁や名古屋高裁、労働保険審査会から相次いで、パワハラによって精神疾患を発症したとの判決、採決が出され、「いじめ」による精神障害の労災認定が急浮上してきた。
 パワハラ自殺を初めて労災として認定した東京地裁の判決(2007年10月15日)は、厳しい上司の暴言―悪感情を交えた人格をも否定する言動で、うつ病に罹り、自殺に追い込まれたというものだ。
 上司から受けた暴言を書き留め、悲痛な遺言を残した男性営業マン。仕事への自信や気力を失くし、自らを責めながら死のうという道を選んだ心境が切々と綴られている。
 判決で認定された上司の暴言を列挙すると次のようだ。
 「存在が、目障りだ」、「いるだけで、みんなが迷惑している」、「お願いだから消えてくれ」−なんという暴言だろう。人間性すら否定され、職場での疎外感が漂う。
 「会社を食い物にしている」、「どこへ飛ばされようと、仕事をしない奴だと言いふらしたる」などだ。
 暴言に耐える一方で、遺書に「元気がなくなり、自分の欠点ばかり考えてしまい、自分が嫌になった」と自らを責める。
 超多忙で職場が病んでいる 言葉による暴力を慎みたい
 裁判長は、これら上司の暴言を「信用性が高い」と認定した。その上で、「上司から人格否定の言葉が発せられることの部下の心理的負担は、過度に厳しく、上司との通常のトラブルより重い」とし、上司の態度には男性への嫌悪の感情があった、相手の立場を配慮せず、大声で傍若無人に発言していたとも指摘し、上司の暴言が、うつ病発症と自殺の原因になったとした。
 遺書の最後には、「(営業)所長の期待を裏切ってすいません。この忙しい時期に勝手なことをして本当にごめんなさい」と綴られている。最後まで自分を責める悲痛な姿が浮かび上がってくる。
 このパワハラ自殺の判決がでた3日後、国の労働保険審査会が別件で、パワハラの労災認定の採決を行った。未経験の営業への配置転換、長時間労働、高い売上目標に加え、休日出勤を強制され、目標が達成できないと「辞表を書け」、「やる気があるのか」など、上司が毎日のように厳しく叱り、来客の前でも容赦なかったという。本件は、パワハラによる強度のストレスから自殺に至ったもので、裁決書では「相当程度の恐怖を抱き、一方的なパワハラを受けていた状況だった」と記されている。
 

 会場でみんなと盛り上がった!

 山桜 散りだす頃に筍の季節となります。

 

 名古屋高裁の判決は、主任に昇格したばかりの男性が自殺したケース。昇格おめでとうとばかりは言えないようだ。担当業務は難易度が高く、量的にも内容的にも過大であり、通常の昇格よりは、相当程度心理的負荷が強く、上司の感情的な叱責などは何ら合理的理由のない、単なる厳しい指導の範疇を超えた、いわゆるパワハラと評価されるもので、相当程度心理的負荷の強い出来事と評価すべきで、うつ病との間には相当因果関係が認められるとされた。
 これらの判決、裁決を目にして、あまりにも職場の空気がギスギスしていることに驚かされる。言葉の暴力は本当だろうか。それとも上司失格なのか。職場が病んでいるとしかいいようがない。
 リストラが蔓延し、厳しい企業競争にさらされている今日、職場での言葉による暴力の凄まじさを反面教師として心したい。同時に、労使で、如何に働きがいのある・人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を日々の業務の中で努力してつくっていくかが問われている。

【2009年3月】
 職場のメンタルヘルス対策 第3回 総合失調症の治療は早期の受診と服薬が最重要
 職場で遭遇するメンタルヘルスの病気 働き盛りの年代に多い

 不安障害
 
強い不安のために日常生活に支障をきたす病気のことで、パニック障害、全般性不安障害、社会不安障害、強迫性障害などがあります。
 以前は「不安神経症」や「自律神経失調症」、「心臓神経症」などの病名で呼ばれていました。働き盛りの年代に多いので、職場で遭遇する機会も珍しくありません。
 発作が起きるのではないかと不安に
 パニック障害
 ある日突然、動悸や息苦しさ、汗と体の震えなどの激しい体の症状が起こり、短時間で治まり、検査しても異常がないというパニック発作を起こします。
 「死んでしまうのではないか」、「気が変になるのではないか」という強い不安に襲われるので、「また、あの発作がおきるのではないか」という「予期不安」を持つようになります。
 そのうち、発作が起こりそうな場所、たとえば、新幹線や特急電車、飛行機などのすぐに下りられない乗り物、映画館や美容院などの自由に立てない場所に不安を感じて、ひとりで外出できないなど、日常生活に支障をきたすようになり、うつ状態になることがあります。
 発作を起こす頻度は人によって様々で月に1回の人もいれば、週に数回起こす人もいます。
 症例
 
28歳の多忙なシステムエンジニアのK子さんは、仕事も順調でやさしい恋人もいます。
 ある日、いつものように通勤電車に乗っているときのことです。急に心臓がドキドキして、息が苦しくなってきました。額にジットリ汗が出て、吐き気と、グラグラしためまいで立っていられなくなり、その場にしゃがみこんでしまいました。身体の震えが止まりません。そばにいた人に抱えられるようにして次の駅で降り、救急車で病院に運ばれました。
 ところが、病院に着くころには落ち着いてきて、イスに座って話をすることができました。一通りの検査をしましたが、どこも異常がないと言われて帰宅しましたが、その後も電車に乗ると、また、あのようなことが起きるのではないかと心配でたまりません。
 パニック障害は、責任感が強いうえに、不安や緊張感を持っている人がなりやすく、目標を達成しようと焦っているときや睡眠不足で起きやすいと言われていますが、性格とは無関係という説もあります。
 近年、脳内の神経伝達物質(ノルアドレナリン)のバランスのゆがみが原因だということがわかり、新しいクスリが開発されて、症状が改善できるようになりました。
 また、パニック発作と似たような症状(動悸、めまい、息切れ)を起こす心臓や甲状腺の病気がありますので、必ず、検査を受けるようにしてください。
 

    日の出と富士山

   朝日に輝く富士山

 

 漠然とした不安が続く
 全般性不安障害
 「社会不安障害」と呼ばれるものと、ほとんど同義です。ある特定のものに対する不安ではなく、漠然とした不安が半年以上続きます。いつもイライラして落ち着かず、ピリピリと緊張しています。
 たとえば、外出先で事故にあわないか、という不安もあれば、子供が無事に成長できるのか、そのころの地球はどうなるのか、というような不安です。
 身近なものでは、お客にお茶を出すときに、粗相をしないかと思うと、手が震えてしまい、お茶を出すことができないという例もあります。また、自分が臭いのではないかと思いこみ、周囲の人に迷惑をかけている、嫌がられているという不安で学校や会社に行けない、外出できずにひきこもっているというケースもあります。
 この病気も、気が弱いとか甘えがあるからではなくて、脳の物質の変化によるものということがわかってきました。
 戸締りを何度も確認するなどの症状が
 強迫性障害
 
「強迫」という言葉では、「自分でも意味がないとわかっていても、ある考えや行為をやめることができない」という意味です。
 不安感や緊張感の強い人がなりやすい病気で、何度も手を洗う、何回も戸締りを確認するなどの症状が見られます。
 誰でも、多少はこのような経験がありますが、その程度が異なります。洗いすぎて手の皮膚がむけてしまっても、まだ洗わないと気になって仕方ない。
 外出するときには、ガスの栓や戸締りを5回も6回も確認し、それでも、途中で心配になって、電車を降りて確認しに戻るということを繰り返します。
 夜中でも、部屋の掃除を始める…そのために疲れ果て、眠れなくなり、うつ症状がでることもあります。
 本人もやめたいと思うのに、やめられず、やめられないことがつらいと悩みます。
 職場では気づかれないようにするため、それが新たなストレスとなり、苦しい思いをしています。

 クスリでコントロールできる場合も
 統合失調症
 
以前の「精神分裂病」という病名では偏見が多く、本来の病態を示すものではないという理由から、2002年に「統合失調症」に変更されました。
 妄想や、幻覚、幻聴が特徴的症状で、発症年齢や、進行状況など様々なタイプがありますが、重症なケースは就業できないことが多いので、職場で遭遇することはあまりないでしょう。
 軽症なものや、発症したばかりのケースは、「言動がおかしい」と周囲が気づくこともありますし、抑うつ症状のために受診してわかることもあります。
 近年、副作用の少ない新しいクスリが開発されたので、クスリで症状をコントロールしながら就業している場合も少なくありません。
 早期受診と服薬が最重要
 (症例)
 
工場で働くTさんは、最近、仕事中にぼんやりしていることがあり、同僚が話しかけても返事をしないこともあります。
 メンタルヘルスの心配をした主任が会社の診療所に連れていきました。
 眠れない、やる気が出ないなどの症状もあったので「抑うつ状態」と診断され、クスリをもらいましたが、2か月ほどしても、Tさんの具合は良くなりません。
 精神科医に紹介されて、診察を受けたところ、Tさんには、ときどき話しかけてくる声が聞こえることや、いつも人がそばにいることがわかりました。幸い被害妄想や攻撃的な意図がないため、半年間の休職と服薬で症状がなくなり、復職することができました。
 総合失調症の治療では、きちんと服薬することが最重要の課題です。 
 規則正しい生活と服薬管理と定期的通院が守れる環境と、職場の理解があれば、就業しているケースもありますが、何よりも、早い段階で受診することが必要です。
 

晴天でした もう一度撮りたい

【2009年1月】

    雪化粧の高原山

 

 職場のメンタルヘルス対策 第2回
 疲労の蓄積によるうつ病には十分な休養が不可欠
 「職場で見られるメンタルヘルス不全」について、産業医である中井幸江氏が経験した症例をもとに、いろいろなタイプのケース・スタディを通して、メンタルヘルス不全者への対応策や発症予防などについて解説してもらうシリーズ。
 第2回の今回は、パフォーマンス型うつ病や、最近増えているニュータイプのうつ病である非定型うつ病などについてみてみる。
  (2)パフォーマンス型うつ病
 完璧主義で責任感が強い性格で、過重な役割を完全にやろうとして疲弊した結果、発症するタイプです。現在、問題となっている過重労働と関連するケースもあります。
 過重蓄積度調査票にたくさんの丸印が
 (症例)
 Pさん(42歳)は課長職のエンジニアです。部下の指導や、外部との交渉だけでなく、自ら新製品の開発を手がけ、常に努力を怠らない姿勢で後輩から尊敬されていました。担当製品にトラブルがあると、徹夜で対策に取り組むため、残業時間は毎月150時間を超えています。
 私が最初にPさんに会ったのも長時間残業検診でした。
 長身で落ち着いた声で言葉少なに話す様子からは、問題ないように見えました。しかし、残業検診の疲労蓄積度調査票の項目はたくさんの○がついていて、「高度の疲労蓄積状態」と判定されました。寝つきが悪く、朝早く目が覚める、疲労感が強い、イライラ、不安など、およそ元気とは言えない状態のようです。
 Pさんに「深夜まで緊張が続くことも原因ですから、早く帰ってください」とアドバイスしました。
 できない自分にショックを受けるPさん
 2,3ヶ月後、Pさんが毎晩徹夜のようだという情報を得たので、Pさんの上司のV部長を呼んで話を聞きました。
 「Pは今、製品の不具合を解決するという責任感で固まっています。彼は自分が納得するまで、ひとの言うことは聞かないですよ」という答えです。
 就業制限をするべきかと考えていた矢先、Pさんの奥様から電話がありました。
 「夫はひどく疲れていて、家ではぼんやりして、口をきく元気もありませんが、休みをとるように言っても耳を貸しません。このままでは倒れてしまうので、先生から説得してください」という内容でした。
 Pさんに、1週間ほど休むように勧めましたが、Pさんは、今の仕事が終わるまでは休むわけにはいかないと静かに言い張ります。
 結局、休日は必ずやすむことと、10時には帰るという約束をしただけでしたが、翌週、V部長から「Pの様子がおかしい、話しかけても返事がない」という電話がありました。
 目の下にクマができて硬直した表情のPさんに「極度の疲労ですから、とにかく休んでください。あとの仕事は部長が引き受けるそうですから」と言うと、何も言わずに顔を覆って、静かに泣いていました。
 休職してから、Pさんの病状は悪くなりました。それまで緊張感でなんとか保っていたものがゆるんでしまい、疲労が一気に出たのでしょう。一日中眠っていましたが、通院先のクリニックで処方されたクスリをきちんと飲んでいると、3か月後には家族と外出したり、普通の生活ができるようになりました。
 さあ、そうなると仕事のことが気になります。翌月、Pさんは勝手に出勤して仕事を始めました。ところが、気持ちが焦るばかりで、頭や身体はついてきません。
 「できない自分」にショックを受けたPさんは、自分が病気であることを受け入れて、再度、療養に専念しました。
 半年後に復職したPさんは、服薬治療をつづけながら、無理のない働き方をしています。

  完璧主義者の昇進時には注意が必要
 
優秀で意欲的で、責任感が強いPさんが完璧を目指して突っ走った結果、うつ病になり、能力を生かすことができなくなったのは、とても残念なことです。
 このケースでは、管理職のセルフケアの難しさ、管理職であるがために、かえって対応が遅れたことが落とし穴となりました。
 また、本人も「自分はうつ病には縁がないタイプだ、このくらいの疲れは何ともない」と軽く考えていたのでしょう。うつ病になるのは悲しい出来事が原因だと誤解している人がまだ多いようですが、単なる疲労の蓄積だけでも発症することを忘れないでください。
 パフォーマンス型の代表は「昇進うつ病」です。
 昇進して、周囲の期待に応えなければとがんばった結果、心身の疲労がたまって3、4か月後にうつ病になるケースです。
 うれしいはずの出来事なのに何故?とだれもが思うため、気付きにくいものです。
 真面目で完璧主義の人が昇進したら、無理をしていないか、周囲の要求が多過ぎないか、などの注意が半年間は必要です。
 過労自殺の危険性高いため迅速な対応を
 うつ病は、疲れた心を酷使したために心と体の全部のエネルギーが足りなくなった状態で、脳の神経伝達物質(セロトニン)の不足によるものです。
 AさんやBさんは心が疲れやすい性格と言えます。真面目でこだわりやすい性格は、状況が良ければ好ましいのですが、場合によっては、ストレスを招きます。
 パフォーマンス型とメランコリー型の性格は真面目で執着心が強いという共通点がありますが、Pさんが自分の意志で積極的に突っ走るのに対し、AさんBさんはどこかに「やらされ感」があります。そのため、職場の対応はちがってきます。
 メランコリー型の場合は、自分で不調を訴えなくても、周囲が気づいて声をかけ、よく話をすれば、スムーズに治療や休職につなげることができますが、パフォーマンス型は自分の病状を認めたがらず、周囲の配慮にも応じようとしないため、とことん悪くなってしまいます。
 パフォーマンス型とメランコリー型は、昨今の社会問題である「過労自殺」の危険性がたかいので、職場の正しい理解と迅速な対応が必要です。
 

    冬景色の如峰山

冬の名物?こたつにみかんならぬ雪の上にみかん

 

 気分の波が激しい性格のように見える
 (3)双極性うつ病(正しくは消極性障害)
 抑うつ状態と躁状態を繰り返す病気で、以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。
 その周期は人によって異なり、長い躁状態がつづいて、たまに落ち込むタイプもあれば、その逆のタイプもあり、躁状態の程度もいろいろです。
 家族や周囲の人は「調子や気分の波が激しい性格の人」と捉えてしまい、病気と思わずにいるケースも多く、日本では、双極性障害の患者さんの半分以上が治療を受けていない状況といわれます。
 躁状態のときはとても元気ですから、本人にとっては問題がなく、周囲が困惑する場合があります。逆に、うつ状態になると、その落差が大きいだけに本人には非常につらく感じ、医療機関を訪れることになります。
 (症例)
 Sさん(43歳男性)は、総務課の社員です。4年前、私の外来に相談に来たのが彼に会った最初でした。
 「先日のメンタルヘルス教育を聞いたら、今の自分にピッタリです。毎朝体が重くて、やる気がおきないし、好きだったカラオケに行っても楽しくないのです」
 確かにうつ症状のようですので、軽いクスリを処方しましたが、健康管理室の古参のスタッフによると、Sさんは、おしゃべりで、いつもハイテンションの人だというのです。飲み会で大騒ぎをして問題になったこともあるとか…。
 3か月後の診察に現われた彼は、「先生!おかけで快調ですよ!仕事はバリバリできるし、酒はうまいしね」と上機嫌です。毎晩、仕事帰りに飲み歩いているようでしたが、その後、バッタリと姿を見せなくなりました。
 元気なSさんとやつれたSさん
 1年後、上司のWさんが相談に来ました。「Sが、前日指示したことを完全に忘れたり、慣れている業務でミスしたり、事務所でよく居眠りをしているのですが。」と困っている様子です。
 久しぶりに会ったDさんは、やつれた印象で、下を向いて涙ぐんでいます。
 「オレって、もうだめなのかな」
 「今の仕事が大変なのですか?」
 「全然ついて行けない」
 近くのメンタルクリニックを紹介すると、「抑うつ症状が強いので、休職が望ましい」という診断でしたので、定期的に連絡することを決めて休みに入りました。
 1か月後の電話では、ボソボソと低い声で体調が悪くてつらいことを訴えていましたが、翌週、突然、赤い帽子をかぶり手土産を持って現れました。
 「ここのケーキうまいよ、食べてみて!」とトーンの高い大きな声で話します。良い機会なので、クスリをきちんと飲むことや毎日の過ごし方、気晴らしの旅行に行かないことなどを注意しましたが、Sさんは新しく買ったテレビやスポーツクラブに入会したことを得意げに話して帰りました。
 そして3週間後、今度は低く沈んだ声で電話をかけてきました。私の指示を無視して、南の島に行ったところ、具合が悪くなったというのです。
 その後3か月はうつ状態が改善せず、Sさんも無謀な行動を反省したようでしたが、ある日、Sさんの家族から、旅行に行くと言って出かけたきり、行方不明だという連絡がありました。結局、東京駅で無事に保護されたのですが、死ぬつもりで家を出たことがわかりました。
 双極性障害の人は躁状態になると、ギャンブルに大金をつぎ込んだ挙句、多額な借金を背負ってしまう、大ゲンカをするなどトラブルを招くことが少なくありません。
 女性の場合は、うつ状態から躁状態になると、突然、宝石やアクセサリーを買いまくる、急に服装や化粧が派手になることが見られますが、これも、思わぬトラブルに発展することがあります。

  (4)(気分変調性)ディスチミア型うつ病
 
従来のメランコリー型やパフォーマンス型とは異なるタイプのうつ病が、近年、20代30代を中心に増えています。
 社員研修で孤立感を持ったDさん
 (症例)
 
Dさん(29歳男性)は経済的に恵まれた家庭で勉強もスポーツも得意な少年時代を送り、周囲の期待どおりに順調に国立大学に進学、学生時代は適当に学び、遊び、そして苦労せずに就職もしました。
 入社後の2年間は、優秀な先輩に仕事を教わりながら充実した毎日を過ごし、Dさんも活気ある職場に誇りを感じていました。
 その後、社員研修で3ヶ月間の寮生活が始まりましたが、Dさんが配属された班は職種の違う社員ばかりで、話が合いそうに思えません。
 次第に孤立感を持つようになり、ミーティングや掃除などの共同作業に参加しなくなりましたが、そのことを指導員に厳しく注意されたDさんは自尊心を傷つけられ、毎日暗い気分で過ごすようになりました。夜も眠れなくなり、研修内容も頭に入りません。
 耐えきれなくなったDさんは、元の職場の先輩にメールを出して、今の窮状を訴えました。それを受け取った先輩が課長に相談したところ、深刻なうつ病になることを心配した課長は、研修を切り上げて帰任できるよう手配しました。
 人事課と相談して以前の職場へ異動
 
数週間後、研修の途中で戻ったDさんは、10日ほどは元気そうでしたが、新たに顧客の対応の部署に配属されました。
 何をどうしてよいかわかりませんが、同僚は何も教えてくれません。朝は頭痛と吐き気で起きられなくなったので、自分で心療内科を受診し、うつ病のクスリをもらうと少し楽になりました。
 しかし、出勤するとめまいや頭痛が起きて、帰宅すると涙が出て止まりません。通院中の心療内科では自分の話をよく聞いてくれないため、産業医に相談しました。
 「自分だけが厳しい研修に行かされたこと、今の業務は自分が大学で勉強したことを生かせないし、指導する人もいない。今までは何の問題もなかったので、うつ病になったのは悪い状況に置かれたからである」という内容を長時間、とうとうと述べる様子からはそれほど深刻な病状とは思えません。
 でも、職場では死にそうな様子だという情報もあり、部長や人事課と相談した結果、以前の職場に異動させました。
 事情をのみこんでいる先輩の配慮もあり、その後、Dさんは定時勤務をこなせるようになり、表情も明るくなりましたが、今も別のメンタルクリニックに通院をつづけているようです。
 周囲から「甘え」とみられる場合も
 
Dさんは、入社するまで、目標が達成できない挫折感を味わったことも、自分の欠点を指摘された経験もなかったようです。
 また、自分から周囲に助けを求めて、困難な場面を乗り切る人間関係を築くことを身に付けてなかったのでしょう。それが、研修の場で露呈したのですが、Dさんはそれを成長の足掛かりとすることができませんでした。
 「自分の能力をもっと認めて、自分に合った仕事をさせてくれるべきだ、なぜなら、自分のその価値があるのだから。」という考え方が根底にあり、置かれた環境が好ましい場合は、元気に活動できるのですが、ひとたび、気に入らないとなると、拒否反応として心身の不調が出現します。つまり、状況によって気分が大きく変わることが特徴で、Dさんも職場を変えた途端に元気になりました。しかし、本人はいつまでも被害者意識を持ち続けて、今回の経験が人間的成長に結びつくことはありません。
 メランコリー型やパフォーマンス型との違いは、集団の規範に従うことを嫌い、「自分は悪くない、周囲の判断や対応が間違っている」という考え方です。他人への配慮をせず、自己中心的で、理論的によくしゃべるなど、一見、症状が軽く見えるので、周囲からは「甘えている」「わがまま」ととられて人間関係が悪化します。
 

 一年通してこの景色は優しく迎えてくれます

   雪化粧のティピー

 

 (5)自己愛型うつ病(逃避型うつ病)
 前でのディスチミア親和型うつ病と似ていますが、自己防衛的な行動が目立つタイプです。
 まじめで心配症の人が不安のために発症
 (症例)
 Jさん(35歳)は入社7年目のおとなしい真面目な印象の男性です。最近、休みや遅刻が多いため、課長が事情を聞いたところ、動悸や頭痛がするので、検査のために通院しているということです。課長から、通常の勤務をさせても問題ないか、という相談で、Jさんに会いました。
 彼の話では、検査の結果は異常なかったのですが、症状がつづいているため、来週は心療内科を受診する予定だといいます。寝ても何度も目が覚めてしまい、寝汗をかく、会社のことを考えると動悸がする。仕事に集中できない、などの症状から、心の病気だと考えたようです。
 翌週、Jさんは「抑うつ病のため、1カ月程度の休職が必要である」という心療内科の診断書を持ってきましたので、その日から休職となりました。
 毎週、体調や受診内容を細かく課長に連絡してきますが、1カ月しても体調はよくならず、休職延長となりました。
 翌月の面談では、「今の体力では復帰すると悪くなりそうだ」と、自分の事情を長々と言い続けます。
 その次の面談では、「別のクリニックに通院しているのでクスリが代わり、副作用のために、復職は無理です」と言いました。
 結局、半年後に復職し、1年ほどは無事に勤務しましたが、その後、同じパターンで休職を二度繰り返しました。
 会社を辞める気はないらしく、就業規則や休業制度について熟知しています。
 課長は「能力があり、出勤すれば仕事はできるので、続けてほしい」と言いますが、他の社員から見ると、「ずる休み」としか思えません。
 Jさんのような逃避型・自己愛型のうつ病は、仮病やずる休みと思われがちですが、当人は本当に不調に悩んでいるのです。「このままでは、もっとひどくなってしまうのではないか?」という不安のために、休職を希望し、復職をためらうようです。
 根はまじめで心配症の人が、仕事の締め切りをせかされたり、失敗が許されない状況に置かれたときには、発症する場合が多いようです。

 (6)否定型うつ病
 
前述のメランコリー型うつ病は休職と服薬で症状が改善されますが、これから紹介するうつ病は、休職しても変化がみられず、クスリによる効果も少なく、症状も異なるニュータイプのうつ病です。
 課長から注意され出勤できない状態に
 (症例)
 
29歳のHさんは、明るい現代風の印象の女性社員ですが、いつも遅刻がちで、ときどき、体調不良で休むこともあります。
 今の職場では同年代の派遣の女性といつも一緒に行動していて、仕事中におしゃべりをしたり、休憩室に行ったきり帰らないことが多いので、課長が注意したところ、翌日からひどく気分が落ち込んで出勤できなくなりました。
 そして、親しくしている派遣社員だけでなく、職場の同僚数人に「課長に人格を否定されて、立ち直れない」というメールを送り、返事が来ないと、「私なんかどうでもいいのですね」という文面のメールをします。
 課長からの相談でHさんに来てもらい、話を聞きました。
 化粧もせず、青白い顔のHさんは、涙ぐみながら、自分の状態を話してくれました。
 「課長に厳しく注意されたのは不本意なので、あの日以来、体が重くて動けない。とくに夕方からひどくて、ベットから起きられず、悲しくなってしまう。でも、お菓子を食べると気分が良くなるので、やめようと思いながらも、家にあるもの全部食べてします。おかげで体重が増えてしまい、よけいに落ち込んでいる。でも、寝過ぎるくらい、良く眠れて毎日12時間は寝ている」
 叱られたことによる反応にしては、症状が重く、仕事ができる状態ではないので、休ませて、メンタルクリニックに紹介しました。
 1か月後も、症状はほとんど変わっていませんが、かなり太っていました。
 その後もHさんは快方に向かうきざしもなく、太りつづけていましたが、半年ほど過ぎたとき、別人のようにニコニコして表れ、「元気になったので復職したい」というのです。話を聞くと、交際中の彼氏と結婚することが決まったようです。
 翌月から復帰したものの、体調や気分のムラが大きく、仕事量としてはアテにならない状態がつづいています。
 従来のマニュアルでは対応できない
 診断や治療がむずかしかったこの症例は、最近増えている「非定型うつ病」と思われます。
 ・良いことがあると気分が良くなり、ちょっとしたいやなことで、激しく落ち込む(気分反応性)
 ・著しい食欲増加(過食)
 ・眠ってばかりいる(過眠)
 ・体が重い感じ(鉛のように)
 ・人間関係で傷つきやすい
 
というように、不眠と食欲低下がみられる従来のうつ病とはかなり違う症状がみられ、若い女性に多いのも特徴です。
 Hさんも、高校生のころから情緒不安定で、友人とのトラブルが多く、そのことで傷つき、落ち込むことがあったそうです。
 従来のメンタルヘルス対策マニュアルでは対応できないばかりか、周囲のと関係が悪くなり、さらに解決がむずかしくなります。
 さて、
 (4)ディスミチア型うつ病
 (5)自己愛型うつ病(逃避型うつ病)
 (6)非定型うつ病
 
上記が代表的なニュータイプのうつ病です。従来型のメランコリー型やパフォーマンス型よりも増えているのですが、まだよく知られていないだけに、対応に苦慮しているケースもあると思いますので、その対応方法について、次回以降述べたいと思います。
 なぜ、昨今、ニュータイプのうつ病が増えているのか?…
 諸説あるようですが、急激な社会構造の変化と豊かな生育環境、規範のない時代などと関連することは確かなようです。
 ということは、今後も増えていく可能性が高く、職域で「うつ病の多様性」について知識を広めることが必要と考えます。
 

 今年は全体的にまだ積雪が少ないようです

【2008年11月】

   天海大僧正の銅像

 

 職場のメンタルヘルス対策〜基礎編〜
 メランコリー親和型うつ病は再発にくれぐれも注意を
 はじめに「職場メンタルヘルス対策」の経緯
 メンタルヘルス不全者は増加傾向に
 私が現場の産業医として仕事をするようになった10年ほど前までは「職場のメンタルヘルス対策」は一部の職場の問題と考えられていました。
 実際にメンタル不全者の数が少なかったこともあるでしょうし、そういう病気であることがわからなかったかもしれません。または、意図的に明らかにされなかったのかもしれません。
 いずれにせよ、平成14年ごろから、メンタル不全による休職者が急速に増えて、企業の担当者はその対応にとまどい、悩むことが多くなりました。
 また、電通事件などの歴史に残る判決が出たことで、メンタル疾患発症への企業責任が明確になりました。そのため、当時の産業衛生学会や研究会では「メンタルヘルスの講演」の需要が急速に高まり、どの学会もメンタルヘルス一色に染まり、会場は満員という状況でした。
 我々も、それまでの知識と経験では対応できず、研究機関や先進企業(メンタル不全多発の)の発表や講演を熱心に聴いたものです。その後、厚生労働省から諸々の指針が出されて、企業として取り組む姿勢が確立されたのはご存知のとおりです。
 しかし、職場のメンタルヘルス不全者は減るどころか増えています。
 最近は、地域や職種、業種、年齢、性別に関わらず、どんなところでも「職場のメンタルヘルス」の問題を抱えていますが、その内容は様々です。
 働き過ぎによる過労や職場のコミュニケーション不足による典型的なうつ病が絶えない職場、対策不足による再発や離職の多い職場、幹部や上司の理解のない企業もまだまだ多いのですが、一方、メンタルヘルス対策や体制が機能しているのにも関わらず、周囲が扱いに困るケースが散見される職場、など、一口に「職場で見られるメンタルヘルス不全」と言っても、その中身は多種多様です。
 そこで、本稿では、いろいろなタイプのケース・スタディを通して、メンタルヘルス不全者への対応と、発症予防について考えてみます。

 基礎編【T】
 職場で遭遇するメンタルヘルス 不全の病気(メンタル疾患)
 1.[うつ病]
 
この20年間で、日本のうつ病患者数は10倍に増えて、100万人を超えています。一口にうつ病といっても、実はいろいろなタイプがあり、最近は臨床の場面でもうつ病の多様性が問題になっています。
 うつ病の分類法はいろいろありますが、今回は職場での対処法という観点から下記のように分類し、私が経験した症例を元にして、症状と進行の特徴、本人の性格と原因、職場対応、休職と復職などのポイントを盛り込んだ話を作ってみました。
 [多様なうつ病のタイプ]
 
(1)メランコリー親和型うつ病
 (2)パフォーマンス型うつ病
 (3)双極性うつ病
 (4)ディスミチア(気分変調性)親和型うつ病
 (5)自己愛型(現代型うつ病)うつ病
 (1)メランコリー親和型うつ病
 きまじめで几帳面、やや柔軟性に乏しい性格の人が、目標に達しないことに罪悪感を感じて落ち込んだり、コミュニケーションをうまくとれずに発症するタイプです。従来は、うつ病といえば、このタイプが主流でした。
 新製品開発を任された後に体調不良に
 症例Mの@
 
Aさん27歳は、大学を卒業後、都内の工場に就職した入社4年目の技師です。実家が遠いので寮生活ですが、寮でも職場の休憩所でも同年代の社員とはほとんど話をせず、いつも一人で携帯電話を見ています。でも、課長が話しかけると、礼儀正しく、はっきりと受け答えをし、優秀で仕事熱心で真面目なため、よい評価を得ていました。
 「そろそろ責任ある仕事を任せてみよう」と考えた課長は新しい製品の開発をAさんに指示しました。
 それを聞いたAさんは内心では「そんなことやれるだろうか……どうしよう」と思いながらも「はい、がんばります。」と答えました。
 その職場はベテランの現場担当者が多く、新製品のことを教えてくれる人はいません。自分で勉強しながら、手探りで進めるほかありません。
 頼みの課長は出張や会議でほとんど席にいませんし、聞いても「そんなことは自分で考えろ」と言うだけです。3か月過ぎたころから、Aさんは以前よりもさらに無口になり、やせて暗い印象になりました。
 ある日、昼食時に食堂でポツンと座っているAさんを人事主任のYが見つけました。Y人事主任は、Aさんの入社時から、その線の細い感じといつも一人でいることが気になっていたのです。
 「あれ?A君、ちっとも食べてないね、具合悪いの?」と聞くと「最近、食べれないんです。いつも吐き気がして……」と力なく答えるAさんの様子に「これはヤバイぞー」と思ったY主任は早速、産業医の私に相談してきました。
 

すっかり葉も落ち山の稜線がよく見える

 しばらく進むと突然雪景色

 

 "私は病気?"とがっかりした表情に
 
Aさんに会ってみると、青白い顔でうつむき加減に、きちんと膝を揃えてイスに座り、私の質問に小さな声で答えます。
 以前から寝つきが悪いが、数週間前から眠ってもすぐに目が覚めてしまい、ほとんど寝ていないこと、吐き気がして食欲がなく、食べても味がわからない、朝は体が重くて、休みの日は起きられない、自分に能力がないので職場に迷惑をかけていること、わからないことを聞く人がいなくてつらいけど、仕事だからがんばらなくてはいけない……そんなことをボソボソ話してくれました。
 「Aさん、あなたは疲れがたまって、うつ病になりかけているから、ゆっくり休みましょう」と言うと、「私は病気なのですか……治りますか?」と、がっかりした表情です。
 「だいじょうぶですよ、ゆっくり休んで、ちゃんと治療すれば、元気になるからね」私のことばに少しホッとした様子です。Y主任には、うつ病と思われるので精神科医に紹介すること、1〜2か月の休職が必要なことを伝えました。
 職場の課長には、Aさんに病状を伝え、仕事のことを気にせずに休める配慮を依頼しました。「そうですか、まだ荷が重すぎたかな、ここを乗り越えれば、自信がつくと思ったのですが。」と残念そうです。
 Aさんの性格では、無理をさせると、自殺の危険があることを話すと「そんなに悪いのですか……前からああいう陰気な感じなので、気にしてなかったのですが、そうだったのか……」と答えます。
 Aさんは実家で療養することになり、数日後、Y主任に付き添われて郷里に向かいました。Y主任が両親に事情を話して休職や復職の制度について説明すると、理解を示してくれました。
 復職するも数日間で休職前の状態に
 
その後、AさんからはY主任にメールで報告が届きます。近くの病院に通院して毎日クスリを飲んでいること、よく眠れて、母親が作った食事をおいしく食べられるようになったが、とても疲れやすく、まだ何かする気力も体力もないそうです。
 ところが、2カ月近くたつと、「長く休んでいては職場に申し訳ないし、体調も良くなったので、来月から出勤します」というメールが届き、翌日には会社の寮に戻ってきたのです。
 復職面談をすると、Aさんはふっくらとして顔色は良くなったものの、表情は硬く、おどおどした様子です。どうやら、父親に「がんばらなくてはダメだ」と叱咤激励されて、早く職場にもどらないといけない、と焦ったようです。病状としては、まだ復職は無理なのですが、職場の課長と人事主任にAさんをしっかり見守ることを頼んで、復職を許可しました。
 すると、予想通り、数日間でAさんは休職前の状態に戻ってしまいました。つらい思いをさせたことは気の毒でしたが、今度はAさんの父親も、焦らずにじっくり療養することが必要だと身に沁みてわかったようです。
 その後、6か月間実家で療養し、普通に日常生活ができるようになりました。そして、上京して寮生活をしながら1カ月ほど経過を見た後に復職しましたが、周囲も無理をさせないようにしているため、今のところは無事に過ごしています。
 家族の対応方法の説明なども重要
 Aさんは、いわゆる「うつっぽい印象」の青年ですが、生まれつきの性格ですからそれを責めることはできません。課長も特に横暴でもないし、悪い人でもなさそうですが、もう少しAさんの性格を理解していたら良かったのでしょう。
 一般に、管理職になる方たちはクヨクヨと悩まず、前向きな考えで突き進むので、Aさんのような性格を理解するのは難しいようです。
 最近はどこの職場も人員が少なくなり、後輩に手取り足取り指導する余裕はなくなりました。気軽に相談できる先輩も少なく、経験の浅い新人が孤立してしまう危険があります。
 Y主任の観察力と行動により、最悪の事態は避けることができたことは大いに評価したいと思います。いつも、若い社員はなるべく実家に帰って療養するようしますが、それは早い回復につながるだけでなく、両親の不安を軽くします。そして、Y主任のように諸事情を直接伝え、会社の誠意ある姿勢を示すことでトラブルを回避することができます。できれば、家族の対応のポイントも説明しておくと、父親が叱咤激励することもなかったでしょう。

 慣れない業務で心身が疲労し発症
 症例MのA
 
Bさん45歳(主任)は、真面目すぎるほど真面目で几帳面で慎重、規則や言われたことをきちんと守る誠実な人です。職場では、確実な仕事ぶりで信頼されている一方、融通が利かない点を疎ましく思われることもあります。
 さて、4月から、Bさんは出向することになりました。
 新しい職場は通勤に2時間近くかかる上、課長とBさんの外は派遣の女性職員が2名だけで、他の部署に依頼した書類をとりまとめる業務です。
 もともと初対面の人と話しをしたり、相手にうまく調子を合わせるのは苦手ですが、仕事でそんな甘えは許されません。ぎこちない笑顔で頭を下げて書類を渡し、汗をかきながら電話口であやまる毎日……深夜、帰宅すると身も心もクタクタです。
 でも、翌朝6時半に家を出て満員電車に乗らなければなりません。几帳面で納得しないと気が済まないBさんは業務を覚えるのに時間がかかり、仕事がどんどんたまっていきます。
 そんなBさんにイライラした課長が「こんな仕事ができないのか!要領が悪くて使えない奴だ」と怒鳴りつけます。「すみません、がんばっているのですが、」と謝るBさんは内心は悔しい思いでいっぱいでした。
 遅れを取り戻そうと毎晩残業しましたが、なかなか進みません。その上、派遣社員の一人が退職してしまい、さらに業務が増えたので、休日出勤して仕事をしました。
 人員を増やしてほしいと課長に頼んだところ「君は10時には帰って、朝も始業ギリギリにしか来ないじゃないか、家が遠いというのなら、こっちに部屋でも借りたらどうだ。本社から人員削減のノルマが来ているのに、人を増やすなどとんでもない!」と怒られてしまいました。子煩悩なBさんには単身赴任は考えられないことです。
 夏が過ぎたころには、夜中に何回も目が覚めるようになり、頭痛と耳鳴りがしてきました。何を食べても味がわかりません。新聞を読む気もおきず、テレビを見てもおもしろくないばかりか、ニュースを見て涙ぐんでしまうことがあります。
 頭痛や腹痛がしても、疲れていても、毎日遅刻もせずに出勤していましたが、11月に入ると、仕事が全く進まず、ぼんやりすることが増えました。
 毎晩疲れ果てた顔で帰宅し、ろくに寝ていない夫の様子を見かねた奥様が、以前の職場の知人に相談したことから、産業医の私に話が来ました。
 

   枝にも積もっている

 雑木林の雪景色 美しいものです!

 

 休職半年でBさんの様子に変化が
 
Bさんに会ってみると、教科書のようにうつ病の症状が揃っていました。幸い、希死念慮(自殺願望)はないので入院の必要はなさそうだと考え、自宅近くのメンタルクリニックに連絡をとりました。厳しい課長の気持ちがこじれないように、人当たりが良い部長に間に入ってもらい、休職の手続きを進めました。
 年が明けて、Bさんは休職中も毎月、近況報告に現われます。はじめの3か月は歩くのもトボトボと頼りなく、話す声も聞きとりにくく、ゆっくり、途切れがちに、クリニックでもらうクスリのこと、出向先でつらかったころや体調のことを1時間ほど話して帰ります。
 何を見ても白黒写真のようで何を見ているのかよくわからない、食事は食べているのが砂を噛むようだ、子供が寄ってきても相手をするきになれないのがつらいなど、無表情な顔で下を向いて話しますが、いつも身なりは清潔できちんとしていました。
 休職して半年が過ぎると、Bさんの様子に変化が見えました。歩き方と話し方が普通の速さになり、まっすぐに顔を上げて、私の目を見て話すようになったのです。でも、話の内容はあまり変わらず、出向先の課長に言われた言葉や、午前中は体が重くて動けない、新聞が読めないなどの話です。
 ところが、翌月来た時は、今までと違って表情が柔らかく、自然な笑みが浮かんでいました。「先日、家の近くを散歩していたら、アジサイの花が咲いていたのですが、それを見て、ああ、きれいだなあと思ったのです。花をみてきれいだと思うなんて久しぶりでした。それからは、周りの景色がフルカラーに見えてきて、子供たちの声が聞けて幸せだと思いました。今は朝早く起きて図書館に行ったり、子供たちを公園に連れて行ったりしています。」

 休職の際は規則や手続きの説明を
 
患者さんから、「うつの症状はいつごろになったら良くなるのか?」とよく聞かされますが、私は「少なくても、つらいのをがまんしていた期間と同じくらいはかかると思って下さい」と答えます。Bさんも6〜7か月の間、心身の不調を訴えていたのですから、だいたい合っています。
 「よかったですね、これからも体調には波があると思いますが、絶対に良くなりますから、悪いときも焦らないようにしてくださいね。」と言うと「はい、クリニックの先生からも同じように言われました。でも、会社はそんなに休めるのですか?」と心配そうです。
 「Bさんは出向先で休職したから、きちんと説明していなかったですね。会社の規則では2年間休職できるので、まだまだ余裕ありますよ。傷病手当金の申請については聞いていますか?」
 「はい、総務の担当者から電話をもらい、申請書類を揃えて提出したところです。」
 本来は、休職する際に規則や手続きの説明をするべきですが、休職するときは急な状態が多いのと、聞いても覚えていないことがあります。後日、担当者や職場の管理職がきちんと説明しておかないと、後でトラブルの種になります。
 その後、Bさんの体調は一進一退を繰り返し、休職からちょうど1年後に出向前の職場に復帰することができました。
 その際、前出の部長が調整に奔走してくれたのですが、実は、Bさんを出向させたのは他ならぬ部長でしたので、その責任を感じて尽力してくれたようです。
 時には「明るいあきらめ」も大事
 
「うつ病で休職することになって、奥さまは何と言われました?」と復職後、Bさんに聞いたことがあります。
 「仕方ないわね、と言っただけで、それまでと同じように接してくれました。」
 これは家族としての最高の支えであり、最良のケアです。
 Bさんが思ったよりも早く回復できたのは、きちんと世話をしながらも、だまって、ごく普通に接してくれた奥さまのおかげだと思います。
 真面目なBさんは療養態度も実に真面目で、きっちりと近況報告するところもあきれるほど几帳面です。もちろん悪いことではありませんが、社会生活のなかでは、もう少し柔軟性があった方が円滑に行くこともあります。
 AさんもBさんももっと気楽に、たまには気を抜いて(手も抜いて?)暮らせば気持にゆとりが生まれるでしょう。
 「こだわり」はストレスにつながります。「まぁ、いいか……」「ま、そういうこともあるか……」という「明るいあきらめ」も大事です。
 
 
精神医学では、AさんやBさんの性格を「メランコリー型の性格」と呼びます。
 いわゆるうつ病のイメージのこのタイプは、クスリがよく効いて治りますが、本人の性格や考え方のクセがあるので、再発にはくれぐれも注意が必要です。
 同じように真面目な性格でも、自分の意志で働き過ぎて発病してしまうタイプがあります。最近、話題の過重労働とも関連しますので、次回、じっくりとご紹介いたします。 
 (株)日立製作所 マイクロデバイス事業部 健康管理センタ長・産業医 中井幸江
 

雲の間から日がさしてうまく撮れました!

 赤い薔薇 豪華ですねぇ〜!

 

読売新聞 「鬱の時代」明るく覚悟 勇気を持って直視、悩む 五木寛之さん
 「日常の些事に追われていると、実存とか、死とか、老いとか、突き詰めて考えているいとまはないし、自分の覚悟だって再確認することを忘れがち。60年前、太平な世の中が続いたことが、稀有で異様なのではないか。これから非常時に入ってくる中で、改めて原点に返っただけです」。覚悟″という重いタイトルについてこう語った。
混迷をきわめる政局、アメリカの金融危機に揺れる経済…。八百長問題に揺れる大相撲などのスポーツまで含め「すべてのカルチャー、時代が鬱の方向に向かっている」と考える。五木流の表現では、「テロは相手の見えない鬱の戦争。エコも鬱の経済学」。その一方で、鬱は「鬱蒼と茂る」という言葉のようにエネルギーにあふれており、「憂」「愁」などにつながる重要な感覚だと語る。
「登山は登りと下りの両方があるけれど、むしろゆっくり下山する時期が黄金期なのではないか。平安時代でも争乱や、最悪の飢饉の中で優れた文化が生まれている。人生だってゆっくり黄昏に向かって下りていく時期が黄金期だと思います」
 鬱の時代に生きる上でのキーワードとして挙げるのは「あきらめる」。五木さんはこれを「明らかに」「究める」、すなわち現実を勇気を持って直視することだと語る。そして、この大変な時代のなかでは「どのように生きるか」よりも、まず、「豚のようにでも生きる。生きていなければ話にならない」とも。それは終戦直後、日本に引き揚げた際に考えたことだ。
「人を押しのけないと日本に帰れなかった。内地に帰ってきた人間は全員悪人だという覚悟もある。非常時には生きるために悪人たらざるを得ないし、人間は大きな悪を抱えた存在であることが露呈する。その人が救われるとか、というのは大きなテーマなんです」。
それは、10年以上の準備期間を経て、新たに連載を始めた小説「親鸞」の主題でもある。平安時代末期は、くしくも王朝文化から武家政権へと変化しつつあった非常時だ。物語で濃密に描かれるのは、貴族や武士だけでなく、体制の枠組みから外れて生きた人々のエネルギーだ。その時代に生きた親鸞も、やはり「鬱の宗教家」だと考える。「己の悪を凝視して、罪業深重と考えて、悩みに徹する。悩む天才だと思います」。
晩年に「和讃」など、多くの著作を残した親鸞を、「晩熟の天才」としてあこがれる。自らは、大河小説「青春の門」を完結させ、ブッダについて書くという前々からの夢もある。「いつ現役を退くかということは考えていません。ずっと発言をし続けて、そこで倒れたら一番うれしい」。
鬱の時代、非常時であっても「にっこり笑って明るく覚悟する」と語る作家は、そう言って笑顔を見せた。

   もみじ紅葉近くで!

 

 自殺原因は上司の発言による精神障害 静岡労基署長事件
 (平19・10・15 東京地判)
 事件のあらまし

 MR(医療情報担当者)として勤務していた労働者が自殺した件で、自殺の原因が上司の係長の発言が過重な心理的負荷をもたらし、それに基づき精神障害を発症させたとして、労災保険の遺族補償給付を支給しない旨決定した労基署長の処分の取り消しを求めたもの。
 判決は「一般に、企業等の労働者が、上司との間で意見の相違等により軋轢を生じる場合があることは、組織体である企業等において避け難いものである」としながらも「上記の通常予想されるような範疇を超えるものである場合には、従業員に精神障害を発症させる程度に過重であると評価されるのは当然である」として、「上司の言動により、社会通念上、客観的にみて精神疾患を発症させる程度に過重な心理的負荷を受けており、他に業務外の心理的負荷やAの個体側の脆弱性も認められないことからすれば、Aは、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして上記精神障害を発症したものと認めるのが相当である」として、処分の取り消しを命じた。

 判決要旨
  
 
一般に、企業等の労働者が、上司との間で意見の相違等により軋轢を生じる場合があることは、組織体である企業等において避け難いものである。そして、評価表は、精神障害の発症の原因としての業務上の出来事の一つとして、「上司とのトラブル」を挙げ、ストレス要因の平均的強度を、U(中程度)と評価している。上司とのトラブルに伴う心理的負荷が、企業等において一般的に生じ得る程度のものである限り、社会通念上客観的にみて精神障害を発症させる程度に過重であるとは認められないものである。しかしながら、そのトラブルの内容が、上記の通常予定されるような範疇を超えるものである場合には、従業員に精神障害を発症させる程度に過重であると評価されるのは当然である。

 第1に、B係長がAに対して発したことば自体の内容が、過度に厳しいことである。B係長のことばは、10年以上のMRとして経験を有するAのキャリアを否定し、そもそもMRとして本件会社で稼働することを否定する内容であるばかりか、中には、Aの人格、存在自体を否定するものもある。このようなことばが、企業の組織体の中で、上位で強い立場にある者から発せられることによる部下の心理的負荷は、通常の「上司とのトラブル」から想定されるものよりさらに過重なものである。

 第2に、B係長のAに対する態度に、Aに対する嫌悪の感情の側面があることである。前述のとおり、B係長のAに対する発言は、害意によるというよりは、基本的には業務上の指導の必要性に基づいて行われたと解されるが、上述の言葉自体の内容に加え、営業活動の基本すらできておらず身なりもだらしないというAに対する評価、Aの死後に同僚やAの親族に対してした発言内容からも、B係長がAに対し嫌悪の感情を有していたことが認められる。

 

  ドーダンツツジの紅葉

    雑木林の中で

 

 第3に、B係長が、Aに対し、極めて直截なものの言い方をしていたと認められることである。衆目の一致するB係長の性格と他人に対する態度は、自分の思ったこと、感じたことを、特に相手方の立場や感情に配慮することなく、直截に表現し、しかも大きい声で傍若無人に(受ける部下の立場からすれば威圧的に)発言するというものである。上司の側から、表現の厳しさに一定の悪感情を混じえた発言を、何ら遠慮、配慮なく受けるのであるから、そこには、通常想定されるような「上司とのトラブル」を大きく超える心理的負荷があるといえる。

 第4に、静岡U係の勤務形態が上記のような上司とのトラブルを円滑に解決することが困難な環境にあることを挙げることができる。本件会社における静岡U係の勤務形態からして、AはB係長から受ける厳しい言葉を、心理的負荷のはけ口なく受け止めなければならなかった上、周囲の者や本件会社が、静岡U係の人間関係ひいてはAの異常に気付き難い職場環境にあったものと認められ、本件の証拠関係をみても、B係長のAに対する言動を本件会社の職制として探知、察知して、何らかの対処をした形跡を認めることができない。このような勤務形態と本件会社の管理態勢の問題も相まって、本件会社は、B係長によるAの心理的負荷を阻止、軽減することができなかったと認められる。

 Aの自殺後、Aの同僚らが原告方を訪問して弔意を表した際に、同僚がAとB係長の関係に言及し、このままではまたAのような犠牲者が出る旨述べたという事実は、本件会社の従業員の中にも、B係長の言動は部下の自殺を引き起こし得る程度の過重な心理的負荷をもたらすと感じる者が少なからず存在したことを意味する。このことは、上記のとおり検討したAの受けた心理的負荷を客観的に評価すれば、同種労働者にとって、判断指針が想定している「上司とのトラブル」を大きく超えていることを根拠付けている。
 以上検討したところによれば、B係長のAに対する態度によるAの心理的負荷は、人生においてまれに経験することもある程度に強度のものということができ、一般人を基準として、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重なものと評価するのが相当である。

 以上検討したとおり、Aは、平成14年12月末〜平成15年1月中に精神障害(その診断名は、発症当初の時点では、適応障害、そして、同月段階では軽症うつ病エピソード。)を発症したところ、Aは、発症に先立つ平成14年秋ころから、上司であるB係長の言動により、社会通念上、客観的にみて精神疾患を発症させる程度に過重な心理的負荷を受けており、他の業務外の心理的負荷やAの個体側の脆弱性も認められないことからすれば、Aは業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、上記精神障害を発症したものと認めるのが相当である。

【2008年10月】
 08.10.3. シリーズ こころ 今時「うつ病」事情 患者4タイプ 
 治療法別々
  最近の「うつ病」について、日本うつ病学会理事長野村総一郎さんに聞いた。
 ―「うつ病」が多様化してきた、といわれますが、どうしてでしょうか。
 
一つの要因は、診断基準の変化です。近年、世界的に主流になった米国精神医学会の診断基準は、主な症状の数で病気を定義しています。とりあえず原因は問題にしないで、一定の症状があれば、簡単に「うつ病」と診断されます。これにより、以前は、別の病気とされていたものも含まれるようになりました。
 もう一つは、「うつ病」が話題になることが増えるにつれ、「気分の落ち込み=病気」という安直な解釈が広がり、間違った使い方をされている面もあると思います。以前より受け入れられやすくなり、安易な診断が増えたという指摘もあります。「うつ病」とは、どんな病気か、改めて整理する時期に来ているかもしれません。
 ―現在、「うつ病」と診断されるものにはどのようなタイプがありますか。
 
私は、主に4タイプあると考えています。@良いことがあっても関係なく重苦しい気分が続き、自分を責める「メランコリー型うつ病」Aそう状態とうつ状態を行き来する「双極性障害」(そううつ病)B軽い憂鬱が2年以上続く「気分変調症」C過眠過食を伴い、良いことがあると元気になることもある「非定型うつ病」です。
 ―患者像も変わってきたと言われます。
 
従来は、まじめできちょうめん、自分を責めてしまう人がなりやすいと言われてきましたが、これは、典型的なメランコリー型うつ病を指しています。内向的な印象がありますが、双極性障害には社交的な人も多くみられます。最近増えた非定型うつ病は、わがままに映ることもあります。
 ―治療法は?
 
タイプ別に異なります。典型的なメランコリーうつ病は、一般的にSSRIなどの抗うつ薬が使われます。しかし、双極性障害は、抗うつ薬を飲むと、そう状態を引き起こし悪化する場合もあるので、気分安定薬が基本です。
 性格などが影響する気分変調症は、基本的に薬では治りにくく、考え方や生活環境の改善に取り組む必要があります。非定型うつ病では、休養した方がよいとは限りません。
 ―診断基準の問題は?
 
病気の定義を世界共通にした意義は大きいのですが、治療法が違うのに同じ病名で良いのか、という問題はあります。症状で「うつ病」と見立てた後、どのようなタイプか、他の病気に当らないか、鑑別する必要があるのですが、単に病名をつけて終わりにすると、治療を間違う恐れがあります。単純に「うつ病治療=抗うつ薬」ではないことを、医師も肝に銘じる必要があります。
 ―現在の「うつ病」をどうとらえたらよいのでしょう。
 
気分の落ち込みや意欲の減退などが一定期間続く「いろいろな病気の集まり」と受け止めた方が、理解しやすいかもしれません。(高橋圭史)
 

   朝鮮アサガオ 
小さい花ですが色は鮮明な赤

 コルチカム C,プルケルス
 バルカン半島南部〜トルコ西部の牧草地や林に生きる

 

 08.10.2. シリーズ こころ 今時「うつ病」事情 問診数分 すぐ診断書
 
「どうしました?」という医師に、「最近、気分が落ち込んで、何もやる気がおきません」と30歳代前半の会社員が答えた。「食欲はどうですか」「ありません」「よく眠れていますか」「いいえ」「疲れていますか?」「はい」診察はこんな調子だったようで、わずか数分で終了。「うつ病ですね。休養が必要だと思います」と診断書が出たという。
 「ほんとうは症状はありませんが、インターネットで見た通りに「うつ病」の症状を伝えたら、簡単に診断書が出ました。おかげでよく休めていますよ」
 ある産業カウンセラーは、休職中の会社員との4回目の面談中、そう打ち明けられた。「今の仕事が向いていないので、嫌で休みたかったんです」という。いつも話題は職場への不満ばかりで、元気そうだ。処方された抗うつ薬は「飲んでいませんよ」と話す。
 「うつ病」など精神疾患を理由に休職する人が増えていると言われる。例えば、人事院の2006年度の調査によると、国家公務員の場合、1カ月以上の長期病休者6105人のうち、「うつ病」など「精神及び行動の障害」を理由にしたケースが、5年前の1.7倍に増え、63%を占めた。
 ストレス社会に心を病む人が増えたこと自体に加え、精神科にかかることへの抵抗感が薄れたことも、患者の増加につながっていると言われる。病気を偽るというのは極端な例かもしれないが、「うつ病」という病名が一般的になったことで、「つらい気分=うつ病」と単純に理解されている面もあるという。
 さきほどのカウンセラーは「問診で診断するわけですから、偽るつもりで話をされたら、見抜くのは難しいかもしれませんが、せめて、もう少し、じっくり診察する必要があるのではないか」と指摘する。
 甲府市の心療内科たけうちクリニック院長、竹内潤一さんは、初診では必ず1時間近くかけるようにしている。症状だけではなく、仕事や生活全般について質問し、患者の人物をできるだけ理解するよう努める。
 「症状はもちろん重要ですが、どんな要素が症状に関係しているか、つかむ必要があります。「うつ病」といっても、人によって薬も違いますから、安易な診断は不適切な治療につながりかねません」と警鐘を鳴らしている。

 08.10.1. 鑑別難しい双極性障害
 そう(軽そう)状態の症状 
 (以下のうち、@を含む、4つ以上の症状が1週間以上続くとそう状態、やや軽くても4日以上なら軽そう状態
 @ 異常に気分が高揚し、興奮したり、いらいらしたりする
 A 自分が偉くなったように感じる
 B 睡眠時間が減っても元気
 C おしゃべりになる
 D いろいろな考えが次々と浮かぶ
 E 注意が散漫になる
 F 目標に向かって異常に頑張る
 G 後先考えず快楽的な行動をする
  (米国精神医学会の診断基準DSM―Wより要約)

 気分の落ち込み、疲労感、不眠などを感じ、7年前、「うつ病」と診断された福岡県の主婦Bさん(56)。抗うつ薬を飲むと気分が持ち直すので、服薬を続けていたが、昨年3月、気分の重苦しさと疲労感が強まり、精神科病院に入院。抗うつ薬を倍近くに増量された。
 約3カ月の入院ですっかり、元気になった。しかも以前より、活動的になった。家庭菜園に夢中になり、元は空き地だったところまで耕し、面積を倍の150平方bまで広げた。夏の暑い盛りも日に6、7時間。トマト、ナス、キュウリ…。食べきれないほどの野菜を作った。
 その反動で昨年9月ごろから、徐々に「しんどいなあ」と思うようになり、また気分がふさぎ始めた。
 増量していた抗うつ薬でも回復せず、不眠になるなど悪化。今年3月、九州大病院(福岡市)に入院した。
 そこで、精神科神経科教授の神庭重信さんに「単純なうつ病でなく、気分の浮き沈みのある『双極性障害』(そううつ病)とみられるので、薬を替えましょう」と言われた。夏場の畑仕事への没頭などは、気分が異常に高揚する「そう状態」の表れとみられた。
 神庭さんによると、双極性障害の場合、抗うつ薬だけを飲むと、そう状態を誘発し、その反動で、さらに気分が落ち込むことがある。治りにくいと判断し抗うつ薬を増量すると、さらに悪循環になる恐れもある。だから、治療は、気分の波をなだらかにする気分安定薬が基本になる。
 Bさんも薬を気分安定薬を中心に替えた。その後、不眠などの症状はほとんどなくなり、今は週2日、1日2時間程度、家庭菜園に出る。
 「正直言って、以前抗うつ薬を増やした直後の方が元気でしたが、あそこまで持ち上げると反動が出るので、今は無理のない範囲で畑仕事を楽しむようにしています」とBさんは話す。
 双極性障害と「うつ病」とは薬も異なる別の病気と考えられているが、「実は鑑別は難しい」と神庭さんは話す。双極性障害でも、うつの期間の方が圧倒的に長い傾向があり、患者の多くはうつ状態で受診するので、症状からは「うつ病」と診断されやすい。多くの人が、最適な治療を受けていない可能性があると言われている。
 「そう状態は本人も自覚しない場合が多い。急におしゃべりになったり、活動的になったり、イライラしたりすることも、軽いそう状態の症状である場合がある」と神庭さんは話す。

 

 ソバの刈り取り 天日干し

稲刈り風景 近所の人の作業を写してみた!

 

 08.9.30. 眠気の原因 実は別の病気
 
東京都の会社員Aさん(52)は3年ほど前、気分の落ち込み、眠気などの症状が強まり、3週間仕事を休んだ。診療所で「うつ病」と診断された。
 「うつ病」では、不眠が症状として表れることが多い。夜眠れないから、昼に眠たい。それにしても、Aさんの場合は、眠気が強かった。出勤途中、駅のホームのベンチで寝込み、遅刻したり、欠勤したりすることもあった。
 「つらくて会社に行きたくないという気分と、眠くて行けないという要素がない交ぜになっていた」とAさんは振り返る。
 仕事への復帰に当たり、人事担当者からの紹介で関連会社の産業医、堀川直人さん(富士電機システムズ健康管理センター所長)を受診した。依然として、気分は沈みがちで、意欲が持てない。相変わらず、よく眠れず日中も眠気が強いし、疲れを感じていた。
 やはり「うつ病」と診断され、職場に事情を話し、残業がない部署に異動した。薬も替わり、気分の落ち込みはあまり感じなくなった。しかし、数カ月たっても、夜間に目覚める症状や、日中の強い眠気から職場で居眠りすることは続いていた。
 堀川さんは当初、眠気は薬の副作用か薬の効果が不十分なためと思った。しかし、薬を調整しても続くことから、「眠気自体は、うつ病とは関係ないかもしれない」と考えるようになった。
 当時、Aさんは身長1b65で体重80`の肥満体形。聞けば「自分のイビキで目を覚ますことがある」という。呼吸器内科で検査したところ、一晩に数十回、10秒以上呼吸が止まる無呼吸状態に陥っていた。「睡眠時無呼吸症候群(SAS)。のどの気道が狭くなり、呼吸が頻繁に止まるため、不眠の原因になる。
 それから毎晩、睡眠時無呼吸症候群の治療として、気道がふさがらないよう鼻に空気を送るマスクをつけて寝るようにした。すると、夜、ぐっすり眠れるようになり、日中の強い眠気はなくなった。
 堀川さんは「睡眠障害や集中力の低下、疲労感などは、うつ病でも起るが、睡眠時無呼吸症候群でも同様の症状が出る」と指摘する。Aさんの場合は、二つの病気を持っていた。
 「うつ病」の個々の症状は、いわば日常的なもので、ほかの病気と共通するものも多い。複数の病気が重なっている場合もあることを理解しておきたい。

 08.9.29. 読売新聞 今時「うつ病」事情 「職場以外は活動的」増加
 「うつ病」の症状
 以下の5つ以上が2週間以上存在(@かA、いずれかは必須)
 @ ほとんど1日中、毎日の抑うつ気分
 A ほとんど1日中、毎日、興味、喜びの減退
 B 食欲減退または増加
 C 不眠又は睡眠過多
 D あせりを感じる、会話や動きが遅くなる
 E 疲労感、気力の減退
 F 罪責感
 G 思考力、集中力の減退
 H 自殺を考える
  (米国精神医学会の診断基準DSM―Wより)

 企業と契約し社員相談に当たる産業カウンセラー、高関薫さん(61)は「近年、うつ病と診断されて面談する社員の印象が変わってきた」と話す。
 「うつ病」と言えば、周囲の状況に関係なく沈んだ気分が続き、何事にも意欲が出ないのが主な症状。患者は、きまじめで手抜きができず、すぐに自分を責める…。
 ところが、高関さんがここ数年面接する人の多くは、「もっと私はできるのに」と周囲を責めたり、趣味など仕事以外では活動的になったりする。20歳代後半〜40歳前半が多い。
 一昨年、「うつ病」と診断され、休職した30歳代のIT企業の男性社員もそんな人物だ。高関さんとの面談中、「職場がつらい。先週も何もやる気が起きなかった」と訴えつつも「来週は東南アジアに旅行に行く」と話した。
 この男性は半年間病欠したが、今度は、その分忙しくなった同じ職場の同僚が相談に来た。疲れから、「うつ病」に陥る危険を感じたので休養を勧めたが、「今は休めない」と一段落するまで仕事を続けた。こちらの方が、「うつ病」に陥りがちな気質に見えた。
 ここ半年、「うつ病」関係で面接した会社員30人のうち、きまじめな従来型は約10人、3分の2は、職場を離れると元気になるといったタイプで、「職場うつ」「未熟型」「逃避型」「現代型」などと呼ばれている。
 産業医の経験が豊富な東大病院精神神経科の河村代志也さんは「最近増えた若い患者は、職場などの環境に順応できずに苦痛を感じる『適応障害』や自己愛的な性格が元になって、「うつ病」と診断されている場合が多い」と見る。
 こうしたケースでは、一般的な治療である抗うつ薬が処方されても、効果は薄い。「本人と職場」の問題なら、職場を離れれば症状は消え、元気になる。単に長期間休養しても、同じ環境に戻れば再発しやすい。
 考え方にバランスを欠いた面がある場合は、カウンセリングなどを用いた治療を行う方法もあるが、時間がかかる。ストレスの少ない職場に変わるなどの調整が現実的な対処法になる。
 近年、最も普及した診断基準「うつ病の症状を参照」では、9項目中5つを満たせば、「うつ病」の診断がつく。河村さんは「精神科受診への抵抗感が薄れ、うつ病と診断される人が増えている。その中には、様々な患者がいるので、治療も一律に、抗うつ薬と休養とは限らない」と話す。

 

コスモス畑 白、赤、色とりどり

【2008年6月】

      向日葵

 

 08.6.22 読売新聞 ひとヒト人物語 小説で「告白」死にたいなんてもう思わない うつと生きる女将の決意
 
神奈川県湯河原町の温泉旅館「旅荘 船越」の玄関で、女将の平野洋子さん(45)が笑顔で宿泊客を出迎える。
 親が創業した旅館を27歳の若さで継ぎ、テレビや雑誌でも紹介されてきた名物女将が実は抗うつ薬や抗不安薬を手放せないことに気づく客は少なくない。だが、地元の人たちは彼女の病気を知っている。
 国家公務員の夫(44)を持つ平野さんは、経営と接客を一人で切り回してきた。
 朝6時から旅館で働き、歩いて2分の自宅に帰れるのは日付が変わるころ。そんな生活を繰り返して迎えた2002年5月のある朝、息がしづらく心臓の鼓動が激しい。うつ病とパニック障害の併発と診断された。39歳だった。
 休養を勧められたが、自分がいなければ旅館は回らないという自負があった。夫と支配人以外には病気を隠し通そうと心に決めた。
 客室で苦しくなると、作り笑いを浮かべてその場を離れる。厨房で発作が起きれば、料理人に気づかれないよう控室に駆け込んだ。
 家から旅館に続く坂道を歩くのがつらくなり、やがて自分には生きる価値がないと考えるようになった。
 首をつろうとしたことがある。04年秋。夫と親友に電話し、「今までありがとう」と告げた。次に覚えているのは、親友に抱えられて泣いていた自分の姿だ。
 湯河原町主催の文学賞があるのを知ったのは翌05年秋。
 「湯河原を題材にした作品大歓迎」という広報誌の文句に胸が高鳴った。
 早春の梅、初夏のサツキ、秋の紅葉・・・・・。季節ごとに姿を変える湯河原が好きだ。その美しさを描いてみたい。素直にそう思った。
 ひと月かけて構想を練った。うつ病の女将が周囲に支えられ、湯河原の自然の中で、回復していく物語。自分と同じ境遇の主人公に、地元の美しさを語らせた。
 06年2月、湯河原文学賞の最優秀賞受賞の知らせが届いた時の夫の言葉は忘れられない。「すごい。君は無価値な人間じゃないよ」
 地元で祝賀会を開くという話が持ち上がった時、ある考えが頭に浮かんだ。
 旅館の女将が登場するとはいえ、知人の多くは完全なフィクションと受け止めている。これは私がモデルだと言ってしまえば、隠し通すことのつらさから解放されるのではないか。
 当日こうあいさつした。「この小説は限りなくノンフィクションに近いフィクションです」
 数日後、商店街で見知らぬ人に話しかけられた。「私もうつ病を告白したら楽になりました。ありがとう」。同じ病気に苦しむ人を私は励ますことができる。そう知ったのはこの時だ。
 作品の出版を決意。同年6月に「梅一夜」(祥伝社)が出ると「勇気づけられた」「自殺をやめた」などとつづった便りが続々と届いた「君は自信をもっていい」。夫の言葉が一層素直に受け止められた。
 今も誰にも会いたくない時がある。ただ前のように無理はせず自宅で過ごす。病状が劇的に改善されたわけではないが、作り笑いと死にたい気持ちは消えた。
 新しい目標もできた。「心を病んだ人がいやされるような宿にしたい」
 そのためにはどうしたらいいか。思いを巡らせながら旅館までの坂道を歩く。(野口博文)

08.6.13 過労死自殺急増 あり方問われる産業界
 
仕事上のストレスや過労から精神障害を患い、自殺する人が増えている。2007年度は全国で81人が過労認定され、過去最多を更新した。本県は過労自殺と認定された勤務医を含む五人で、過去最多だった03、06年度の2人を一気に超えた。
 長時間労働や責任の増加、成果主義の拡大などが働く人たちを追い詰めているのだろう。コスト削減のための人減らしが背景に指摘されている。企業にはメンタルヘルス対策の徹底が求められるが、最近の産業界のあり方が問われる事態でもある。
 厚労省の調査では、07年度の精神障害の労災申請は952件と前年度比16%増で過去最多。03年度の2倍を超えた。労災認定は268人と前年度比3割増でこれも、過去最多である。うち自殺は05年度の2倍になる。とても尋常とは言えない。
 自殺を労災認定された人は20代から50代までの各年代にまたがる。業種別では製造業や卸小売業に多く、職種では専門技術職が目立っている。本県の5人は製造、卸小売業、建設、医療福祉の4業種で、30代が3人、40代と50代が各1人だった。
 働き盛りに集中しない年代の拡散は大きな特徴だろう。人員削減で若い層へも仕事量や責任がしわ寄せされている実態がうかがえる。
 精神障害の労災申請は県内では実は少ない。07年度の都道府県平均は20件だったが、本県は5件で茨城(20件)や群馬(10件)を大きく下回った。06年度も7件(全国平均17件)にとどまる。引っ込み思案な県民性の反映だろうか。我慢する必要はない。該当するか労基署に相談してみたい。労働環境の改善にもつながることだ。
 企業の6割にうつ病や心身症などで1ヵ月以上休職している社員がいる、と民間調査機関・労務行政研究所が4月に発表している。カウンセリングや電話相談などメンタルヘルス対策の実施率は大企業が99%に達するが、300人未満の企業は57%にとどまる。中小企業は対策を急ぎたい。
 ただ問題の根本には過重な労働やストレスを生む効率第一主義の経営がある。産業界がそれを変えない限り、事態の改善は困難で、多くの精神不調者が存在し続けることになろう。社員、従業員の心身の健康維持も企業の重要な社会的責任だと指摘したい。
 

部屋を飾る生花 洒落てます。

08.6.14 読売新聞 キヤノン社員自殺「労災」
 
キヤノンの富士裾野リサーチパーク(静岡県裾野市)に勤務し、2006年11月に自殺した研究開発職の男性社員(当時37歳)について、静岡県の沼津労働基準監督署が「過労が原因」として労災認定していたことがわかった。代理人の弁護士が13日、記者会見して明らかにした。
 代理人によると、男性は06年4月に職場のサブリーダーとなってから残業時間が増え、自殺前1カ月の残業時間は、確認できただけでも263時間50分に上ったという。キヤノン広報部は「労災認定を事実として厳粛に受け止め、誠意をもって対処していきたい」とコメントした。
 

朝日が輝く雲 周りはまだ暗い

 小豆温泉ロッジからの新緑

 

08.6.5. 下野新聞 心病む教師急増 休職者10年で5倍 現場「助け会う余裕ない」 業務多忙、理不尽な親との人間関係……
 
県内の公立小・中学・高校で、うつ病など精神性疾患のため休職する教職員が増え続けている。1997年度から2006年度までの10年間で5倍に迫り、病気休職に占める割合もほぼ倍増している。多忙な業務、理不尽な保護者との人間関係にストレスを感じているためでは、とみる教職員が多い(田面木 千香)
 本県の教職員は最長180日の傷病休暇を経ても回復しない場合、病気休暇を取得することができる。1997年度の病気休職者42人のうち、精神性疾患の休職者は16人で割合は38.1%だった。しかし、2006年度は115人中77人で、占める割合は67%と108倍になった。精神性疾患による休職者77人は10年前の4.8倍と急増している。
 「保護者や子供との関係に苦労しているのが原因の一つだと思う」と話すのは宇都宮市の小学校教師。「自分の子供を特によく見てほしい」など、身勝手な要望をする保護者や集団生活のできない児童が近年、目立つようになり「対応に迫られ多忙感、疲労感を抱えてしまうのでは」と推測する。
 さらに、この教師は「教員同士、互いに気を配る余裕があればいいのだろうが、目いっぱい授業を持っている先生は多く、難しい」
 50代の中学校教師は「多忙な現状のままだと、病気休職をする教員はもっと増えるだろう」と将来を悲観する。前任校に、精神性疾患のため休職していた教師がいた。しかし「十分に授業をフォローできるほど、現場の教員に余裕はなかった」と振り返る。そのため「(授業をする)自分の役割を果たしてほしい、というのが本音。先生自身が弱くなっていることも理由の一つにあるかもしれない」と話した。
 県教委は、教職員を対象に県内7カ所の相談・医療機関でカウンセリングを無料(回数制限あり)で受けられる相談事業を実施。各種研修でメンタルヘルスについて講習したり、休職者の職場復帰を支援するなどの取り組みを行っている。

08.6.3.読売新聞 名ばかり管理職でうつ病に 若手負担重く 精神疾患の労災認定増加 非正社員増え長時間労働 08.5.24掲載
 
 2〜30代を中心に精神疾患の労災認定が広がっている。人件費削減のため非正社員が増えたあおりで、正社員の負担は重くなる一方だ。
 残業代が出ず、長時間労働を強いられる「名ばかり管理職」の若手が職場で孤立感を深め、心の病にかかるケースも出ている。今月9日、権限や裁量もない名ばかりの管理職で残業代が出ないのは不当だとして東京地裁八王寺支部に提訴したコンビニ店長清水文美さん(28)はうつ病で休職中。近く労災も申請する。
 高卒後、ガソリンスタンド店員など5つのアルバイトをして1昨年9月、正社員に採用された。
 「自分の将来をつくっていくために正社員になりたかった。母は拍手して『おめでとう』と言ってくれた」と振り返る。
 入社後9カ月で店長に。店には清水さんしか正社員がいない。出勤できないバイトに代わってシフトに入り、早朝から深夜まで働いた。
 うつ病発症前の半年間の残業時間は月平均で108時間。昨年8月には160時間を超え、4日間で80時間働いたこともあった。次々と辞めていく社員の穴を埋めるように、1年2カ月の間に職場は6回も変わった。
 昨年5月ごろから腹痛や不眠、食欲不振に悩まされ、4カ月後うつ病と診断された。「店長はバイトの相談を受ける立場。孤立して相談できる人もいなかった」と清水さん。「社員が辞めるから会社は常に正社員を募集していた。会社は僕たちを将棋の駒のようにしか思っていない」と憤る。
 過労死弁護団全国連絡会事務局長の玉木一成弁護士によると、精神疾患による休業や復職に絡む若い人の法律相談が増えているという。
 玉木弁護士は「労災は会社を辞めた後に申請する人が多いが、その前の段階での相談が多い。数字に表れない層の広がりを実感している」と指摘。「名ばかりの管理職など会社が個人に責任を取らせる働き方が多い。辞めたらもう正社員になれないというプレッシャーも広がっている」と話した。
 負担のしわ寄せ
 過労自殺問題に詳しい川人博弁護士の話
 中高年のリストラが進み、雇用者の3分の1が派遣やパートなど非正規労働者となり、管理職になる前の若い正社員に負担のしわ寄せがいき、仕事の負荷が増えている。過労死問題が本格的に取り上げられた約20年前は4、50代がほとんどだった。今は若い世代にシフトしてきている。
 

只見町塩沢・江戸時代の名主屋敷・民宿

【2008年4月】

白牡丹の花 鮮やかですねぇ! 

 

08.4.10 下野新聞 「過労死の現場」改善へ 心の健康対策に重点
  とちぎ地域医療 医師の自殺繰り返すまい 県央の病院
 
 県央の病院に勤務中に自殺した男性外科医=当時(38)=側の労災申請をめぐり、鹿沼労働基準監督署が過労自殺などと認定したことを受け、長時間労働や精神面の支援体制の不十分さを同労基署から指摘された本県と埼玉県内の病院が9日までに、勤務医の労働時間短縮やメンタルヘルスケアなどの再発防止策に乗り出した。両病院は労災認定を教訓に「二度と繰り返さないようにしたい」と強調する。一方、同労基署は両病院に対する是正勧告や指導を検討している。
 男性外科医は2000年12月から埼玉県内の公立病院に約1年半勤務し、02年5月に県央の病院に転勤。同年6月に県内の高架道路から飛び降り自殺した。
 両親の労災申請に鹿沼労基署は今年3月「公立病院では月80時間を超える時間外労働が恒常的だった。県央の病院も、医療ミスをした外科医に対する精神的な支援が不十分だった」などと判断。過労自殺と認定した。
 今回の労災認定に県央の病院は「厳粛に受け止める」とした上で、「診療科長らに自殺の予兆や危機に関する基礎知識の資料などを配布した。心の内面を知るのは難しいことだが、SOSの気付きに向けた現場の意識向上に努めたい」とメンタルヘルス対策に重点を置く方針だ。
 一方、長時間労働を指摘された埼玉県内の公立病院は「外科医が勤務していた5,6年前は、勤務医も少なすぎたようだ。現在も医師不足だが、労災認定の反省からどうすれば労働時間の短縮に結び付けられるかを衛生委員会などを通じて検討していきたい」とコメントしている。
 両親の労災申請の代理人を務めた小山市の石郷岡耕一・社会保険労務士は「労基署はきちんと病院を是正勧告・指導し、再発防止策を書面で求めるべきだ。他の病院も同様の犠牲者を出さないように労務管理を真剣に考えてほしい」と話している。
 過労死弁護団全国連絡会議によると、過去5年間に少なくとも10人の医師や研修医が過労による自殺または過労死と認定されている。

08.4.23 下野新聞 うつ病での解雇無効 発症と業務の関係認める 東京地裁

 過酷な勤務が原因でうつ病となったのに、休職期間終了を理由に解雇したのは不当として、東芝の技術職の元社員重光由美さん(41)=埼玉県深谷市=が解雇無効の確認などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は22日、解雇を無効と認め、慰謝料など835万円と未払い賃金を支払うよう命じた。
鈴木拓児裁判官は「うつ病発症前の半年間の時間外労働は平均で月約90時間。業務も肉体的、精神的な負荷を生じさせるもので、うつ病との間には因果関係があり、解雇は無効」と判断した。
 原告側の代理人は「仕事が原因でうつ病となった労働者を一方的に解雇するケースは多い。ただ訴訟になる例は少なく、今回のように業務が原因でうつ病になったと認め、解雇を無効にした判決は珍しい」としている。
 判決によると、重光さんは埼玉県の深谷工場で2000年から液晶生産ラインの立ち上げなどを担当。長時間の過重な労働で01年4月にうつ病を発症し10月から欠勤していたが、会社は04年9月に解雇した。
 

  山桜 散り始めた

【2008年3月】

  サンシュウの花 

 

      「うつ病」関係

     (反応性うつ病の業務上外について)
当局管内○○労働基準監督署長より下記事案に係る標記についてりん伺があり、検討の結果、当局としては、標記疾病は労働基準法施行規則別表第一の二第九号に該当する業務上の疾病であり、自殺未遂による負傷も業務上の事由による災害であると判断しますが、なお疑義があるのでこれらの業務上外についてりん伺します。(要旨。以下同じ)。

請求人(男、発病時31歳)は、昭和45年4月、○○株式会社に入社、設計部第一課に配属され、以後設計技術者として高架橋、駅舎等の地上構造物設計を主たる業務としてきた。昭和53年9月に受注した○○線○○地下駅詳細設計の業務に技術面における事実上の立案者として従事したが、当該業務には大都市ターミナル駅における大規模地下駅としての特殊性、新技術の導入等に伴う技術の困難性、相次ぐ設計条件の変更等による納期確保の困難性が認められ、また、社内の協調体制が十分なものではなかった。
 請求人は、昭和53年11月頃より不眠等を訴え、翌年1月、○○病院(精神科)に受診、神経症と診断され、その後同年7月までの間に○○大学付属病院等でうつ病又は心因反応と診断されて通院又は入院による治療を受けていたが、同月19日、○○線○○駅ホームより投身し、両下肢切断の重傷を負ったものである。
 なお、請求人は、医学的にみて誠実、責任感が強い、几帳面等の性格特性を有しているが、精神障害に係る既往歴、家族歴は認められていない。
 請求人は、本件精神障害及び負傷は前記設計業務における種々の困難性等から生じた著しい精神的負担を受けたことによるものであるとして労災保険給付の請求を行ったものである。
 貴見のとおり取り扱われたい。(昭59・2・14 基収第330号)

 「基収」 労働省労働基準局長の回答

名古屋高裁 昭和57年(行コ)第三号 昭和58年9月21日判決
会社主催の忘年会への参加が業務行為とは認められないとされた例
 控訴人は、事業主が労務管理上、懇親会等の対内的社外行事を行うことが必要であると判断し、管理職が労働者に参加を要請し、通常勤務日に参加者を出勤扱いとして行う社外行事に、労働者が、事業主の意向に沿い、これに参加せざるを得なかった場合には、当該労働者が世話役、あるいは幹事役でなくとも、事実上従属的労働関係のもとにあったのだから、労働者の社外行事参加について業務遂行性を認めるべきであり、したがって控訴人の本件会合への参加には業務遂行性があると主張する。
 しかしながら、労働者が事業主(使用者)主催の懇親会等の社外行事に参加することは、通常労働契約の内容となっていないから、右社外行事を行うことが事業運営上緊要なものと客観的に認められ、かつ労働者に対しこれへの参加が強制されているときに限り、労働者の右社外行事への参加が業務行為になると解するのが相当である。前記認定事実(原判決引用)によれば、本件会合は、A道路企業株式会社が経費の全額を負担しているが、従業員の慰安と親睦を目的とするものであって社会一般に通常行われている忘年会と変わりはないから、本件忘年会を行うことが右会社の事業運営上緊要なものとは認められず、また右会社役員が従業員に対し、特に都合が悪い場合は格別、できるだけ参加するようにと勧め、参加者を当日出勤扱いにする旨伝えたことは認められるものの控訴人に対し本件忘年会に参加することを強制した事実は認められない。したがって控訴人が本件忘年会に参加したことを業務行為と解することはできず、右忘年会参加について業務遂行性を認めることはできない。

 

  ショウジョウバカマ 

 ダンコウバイ 

 

 山下 格 著 精神医学ハンドブック より抜粋
         心身症のおきかた
 
心身症が「心理社会的因子が密接に関与」する「病態」であるという意味を理解する糸口は、いま述べた身体的変化であるが、臨床の場面で実際におきることを理解するには、なおいくつかの知識が必要である。

a ホメオステイシス
 社会・心理的刺激によって「闘うか逃げる」という生理的変化、すなわち交感神経系及び一部のホルモンの機能亢進がおきることはすでに述べた。ところが生体は、刺激によって一方向の変化がおきると、すぐ反対の変化を生じて平衡を保つ性質を持っている。たとえば生体に熱が加わって体温が上がると、すぐ発汗が起きて体温を一定の範囲に戻そうとする。これは、前記のキャノンがホメオステイシスと名づけた、生体機能の常用な特性である。
 前記のように自律神経系には交感神経系と副交感神経系があり、前者は「闘うか逃げる」ための諸変化を起こし、後者は反対に消化・吸収・貯蔵など、修復のための諸機能を持つ、上記の身体的及び感情的刺激によって前者の交感神経機能が亢進してからだの変化が起きると、このホメオステイシスのからくりによって、すぐ副交感神経系の機能も亢進する。ホルモンの分泌にも同じような変化が起きる。したがってこれらの刺激によって、実際には交感神経系と副交感神経系と各種ホルモンを全部合わせた、自律神経・内分泌全体の機能変調が生ずるといえる。
 日常生活のなかで、刺激は絶えずおき、自律神経・内分泌機能はそれに応じて変化して、からだの働きを一定範囲に保っている。しかし刺激があまりに強く、あるいは長く続くと、さまざまな支障を生ずるようになる。
 

 満開の梅花と青空

 ののひろ(のびるとも言う)食べられます! 

 

b 筋肉運動
 猫に犬を吠えつかせるキャノンの実験の際に、猫は顔を引きつらせ、背をまるめ、爪をむくとともに、全身の筋肉を細かくふるわせていた。すなわち、「闘うか逃げる」ために、自律神経・内分泌系だけでなく、全身の筋肉を含む運動系が緊張状態にあったわけである。現代の我々の日常生活においても、同じことが起きていると言える。

c 免疫
 最近、免疫に関する研究の発展とともに、感情と免疫機能の関連が注目されるようになった。免疫の働きは自律神経・内分泌系の影響を受けるので、社会・心理的刺激により二次的に変化する。しかしときにはその変化が独自におき、反対に自律神経・内分泌機能に影響を及ぼすことが知られている。

 ここで、前記の身体的および感情的な「非特異的」刺激による「共通」の変化というストレスの現象を、上記のa、b、cの変化を加えて表現しなおすと、ストレスとは、さまざまな物理・化学・生理・社会・心理的刺激によって自律神経・内分泌・運動・免疫機能の変調をきたす現象である。ということができる。そのうち社会 ・心理的刺激による変化が、心身症と特に関連が深いわけである。
 しかし、これらの変化が実際の臨床面に現れるには、さらに次のような要因が加わることが多い。

d 予期不安
 人間は物事を記憶し予想する能力が優れているので、苦痛や危険に対していわゆる予期不安をいだきやすい。このためしばしば、以前に経験した痛みを思い出し、あるいは今後の苦しみを連想するだけで、現実の社会・心理的刺激に似た生理的変化及び自覚症状を生ずることがある。

e 暗示
 人間はまた、暗示によって同様の自覚症状を生じやすい。自ら意図して身体感覚や気分を作りだすのが自己暗示、他人が暗示の操作をして同様の効果を生み出すのが催眠である。しかし実際には自分の意図や他人の操作を意識しないうちに、何らかの暗示が働いていることが少なくない。たとえば偽薬(形や色は同じでも薬の入っていない錠剤など)の効果は、その1例である。

 

 ねこやなぎ 早春ですね!! 

 梅の花 開花 匂いますよ! 

 

f 条件反射
 予期不安や暗示よりもいっそう自動的に起きるのが、各種の条件反射である。ある場所、ある人、ある香りだけで、反射的に特定の身体感覚や生理的変化が起きる。それは昼のサイレンを聞いて空腹を覚えるように日常的な現象であるが、病気に関連してしばしば不都合な結果を生ずる。

 したがって、社会・心理的刺激による「戦うか逃げる」ためのからだの変化と、上記のa、b、c及びd、e、fの諸変化が一体になった現象が、心身症(および一部の神経症)のもとになっていると考えることができる。

P26:
 この抑うつ神経症(神経症の抑うつ状態)については、のちに気分障害の項目(p75)で再度取り上げる。本来のうつ病は体質的素因が関与する「からだの病気」で、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)の代謝の変化が想定されている(p85)。この脳内神経伝達物質は、前記の心身症の項目で説明した自律神経・内分泌機能を調節する物質で、社会・心理的ストレスによって大きな影響を受ける。神経症の了解可能な抑うつ状態の場合にも、この神経伝達物質の代謝に何らかの変化が生じてる可能性は否定できない。(同様のストレスが、素因のある人に内因性うつ病を誘発することは後に(p75.85)述べる)。
 治療には、抗うつ薬とともに抗不安薬や睡眠薬を用いながら、生活状況に応じた支援を続けることが必要である。

 P74
 ここで「主に内因による」という表現のうち、「主に」とは、「症例により大きな違いがあるが、しばしば一定程度に」というほうが、より実際に近い。また「内因」とは、遺伝体質的素因のことである。遺伝という言葉は特殊な印象を与えるが、遺伝疾患は大きく分けて2種類ある。一つは唯一の特殊な遺伝子による病気(単因子遺伝病)で、メンデルの法則通り優性・劣性常染色体性・伴性の条件にしたがって発病する。病気の種類は非常に多いが、各疾患の患者数はごく限られている。いま一つは多数の遺伝子の各作用の促進・抑制のバランスがかたよる結果、例えば背の高い両親から背の高い子供が比較的多く生まれるように、一般人口平均より近親者に比較的多く見られる病気(多因子遺伝病)で、メンデルの法則にしたがわず、環境要因により大きな影響を受ける。すなわち誰でも(あなたも私も)、程度の違いはあれ、多少ともそのような素因を持っている。病気の種類は高血圧、糖尿病、各種の癌などのごくありふれた病気で、患者数は非常に多い。以下に述べる気分障害も統合失調症も、後者の多因子遺伝疾患に属するといえる。
 多因子遺伝疾患の病気のおきかたは、高血圧(本態性高血圧症)を例にとると理解しやすい。近親者に高血圧の多い人は、そうでない人に比べて、中年になると血圧が高くなりやすい。特に塩分の取り過ぎ、太りすぎなどがあると、その傾向が強くなる。さらに前章の心身症の項に記したように、種々のストレスが加わると、血圧はいっそう上昇する。特に素因が大きければ、若いうちから血圧が高くて、薬が必要になり、それでも十分には抑えきれないこともある。気分障害や統合失調症でも、同じような事情が見られる。
 

  梅の花 もうすぐ満開

  節分草 小さな花です!

 

 すなわち、気分障害や統合失調症は、このような意味で高血圧などと同じ「普通のからだの病気」である。その背景にはほかの病気と同様に種々の程度の体質的素因があるが、精神的ストレスを含む環境要因によって大きな影響を受ける。
 したがって気分障害や統合失調症の診断も治療も福祉的な援助も、ほかの身体疾患と同様に行われる。それらは心身症や神経症に対しても「主に内因によるもの」に分類されるが、特殊な遺伝疾患でなく、あくまでも「普通のからだの病気」であることを、医療・福祉関係者はもちろん、患者本人および家族も銘記することが望まれる。

 気分(感情)障害 (F3)
 気分障害(感情障害と呼んでもよい)の分類、用語、発病のメカニズムについては、国際的になお十分な意見の一致が見られていない。ICD−10も、「この疾患を誰もが十分納得するような形で分類することはできない」としるしている。いま諸学説を羅列的に紹介しても、理解の助けにならないので、ここで以下のように、問題を整理しておきたい。

 まず本章では、気分障害を、T.うつ病(うつ病エピソード:F32、反復性うつ病障害:F33)とU.躁うつ病(躁病エピソード:F33、双極性感情障害(躁うつ病):F31)に分ける。そして診察の時点までにうつ病の周期しか見られない場合をT、躁病の周期がみられたときはUと診断する。うつ病と診断したあとで躁病の周期があらわれるなら、その時点で診断名を変更する。両者が別の病気か否かは、いまは問題にしないことにする。
 およそ抑うつ状態が生ずるのは、おおまかに言うと次の四つの場合である。

 

 フキノトウ 天ぷらでも苦い!!

 節分草 接写  可憐です! 

 

(1) 社会・心理的要因が重要な場合
 これまで伝統的に神経症性、心因性、反応性うつ病などと呼ばれてきた抑うつ状態で、すでに前章の各箇所(特にp25−26)で説明した。臨床症状にも多少の特徴(p−26)が見られること、悩みを持つ人の身になり代わって考えるとある程度までその苦痛を理解ないし追体験できることも、前記のとおりである。すでに述べたように、以下の各ケースが分けられる。
@ 人生の失意や不遇、深刻な対人関係の葛藤、不登校、失職などによって生ずる。各個人の生活環境や性格によって、いろいろ違った色どりや経過が見られる。前記の抑うつ神経症(p.25)が代表的で、多くは不安を伴い、ICD−10の混合性不安抑うつ障害(F41.2)にほぼ相応する。
A 突然の災害、戦争、近親者の急死など誰にも耐えがたい外傷的体験にさらされると、各個人の性格の違いを超えて、適応障害としての短期ないし長期の抑うつ状態(F43.20-21、p40-41)あるいは心的外傷後ストレス障害(F43.1、p39)に伴う抑うつ症状が起きる。
B 前章にしるしたように、パニック障害、各種の恐怖症、強迫性障害などの神経症、摂食障害や性同一性障害、あるいは重い身体疾患、成人後の失明や交通事故による運動麻痺などの各種疾患によって、長期にわたる心身の著しい苦痛及び生活上の困難が生ずると、しばしば抑うつ状態に陥る。

(2)体質的素因が重要な場合
 上記の社会・心理的要因が少なくも明確に存在しないにかかわらず、したがって特別の理由がない(ただし本人及び周囲の人々は種々の理由を考えることが多い)のに、のちに詳しくしるす定期的な抑うつ症状が、徐々にあるいは急速に出現して、一定期間続いたのち、再び理由なく軽快ないし完全に消失する。その後も、同様の症状が周期的に反復することがある。すなわち、いわゆる内因性の(したがって普通のからだの病気としての)うつ病である。
 この臨床症状には、後述のように、(1)の抑うつ状態と違って、本人にも不可解で周囲の人々にも追体験できない関心・意欲・能率の低下、午前中に悪い日内変動などがみられ、あるいは生活環境の改善や周囲の励ましや慰めでは回復せず、特定の薬理作用を持つ抗うつ薬が有効なことなどから、何らかの身体的変化(p85)によるものと考えられる。
 また、このうつ病の症例の一部に、抑うつ症状と裏返しの躁症状(p89)が一定期間あらわれる場合がある。これが躁うつ病で、躁症状のみ出現することは稀である。

(3)内因性うつ病が誘発される場合
(1)にあげたように憂うつになる理由が本人も周囲も思い当たらないにもかかわらず、(2)のような定期的抑うつ症状が、生活の特定の節目に出現する。次の二つの場合があげられる。
@ 特に細かいことも落ち度なくやりとげようとする几帳面で熱心な性格の人が、例えば昇進に伴う転勤、結婚や就職による移住、新築した家への引越し、定年退職後の生活環境の変化などの後、新しい生活状況に適合する努力を重ねるうちに、疲労感に続いて定期的に抑うつ症状を生ずることがある。この症状がおきる生理的機転については、のちに詳しく述べる(p85)。その後、特別な生活状況の変化のないときにも定期的なうつ病をおこす場合が比較的多いことからも、うつ病が「誘発」された状態と考えられる。
A 精神的な要因があまり関与しない生理的な変化、例えば日照時間が不足する冬期間、純粋な身体的過労、あるいは出産のあとなどに、繰り返し抑うつ状態をきたす場合がある。(p84..89)。症状も定期的で、うつ病の一つのタイプとみなすこともある。

 (4)うつ病以外の病気による場合
 うつ病とは違う精神疾患の経過中に、明瞭な抑うつ症状が現れることがある。おそらくその病気によって、うつ病を生ずる身体的変化に類似の神経化学的変化が生じているものと思われる。この状態を改めてうつ病と呼ぶか否かは別として、純粋なうつ病との鑑別診断は常に必要である。
@ 統合失調症は、後述のように、きわめて多彩な症状及び経過を示す複雑な病気であるが、その初期あるいは病気が一応おさまった時期などに、抑うつ症状が前面に現れることが珍しくない(p110)。
A アルコール依存症などの薬物乱用によって、生活苦などの心理的理由とは別に、抑うつ症状きたすことがある(p170)。
B 明確な脳機能の変化をきたす疾患(たとえば老年痴呆の初期など)の際にも、しばしば抑うつ症状が現れる(p153.157)。うつ病との正確な鑑別診断は、その後の対応を考えるうえでも重要である。

 このように抑うつ状態は、さまざまな要因が複雑に関係して生ずる。うえに述べたのはその大要であって、実際には、例えば(1)の@、A、Bが(2)を誘発ないし症状の悪化・遷延をきたす場合、あるいは初めは(1)のように見えながら子細に経過を追うと(2)と判断される場合など、種々の事例がみられる。したがって抑うつ状態には、症例ごとに臨床症状、前病歴、生活状況、性格傾向などを含む詳細な診察と、それに応じた個別的かつ総合的な治療・援助が必要になる。特定の学説による画一的診断やマニアル的な治療は、努めて避けなければならない。また国際診断基準は、一定の抑うつ症状を示すものを、発症要因を敢えて問わずにすべてうつ病(あるいは大うつ病性障害)と呼ぶので、意味をとり違えないよう注意が必要である。
[follow up}
 うつ病という診断名は、上記のように多様な病態に対して用いられ、その用法も一定していないので、統計的検討は常に困難を伴う。したがって得られた数値も、慎重に評価しなければならない。
 上記の諸要因によって、軽い抑うつ症状が、最初から、あるいは治療後に不完全な改善のまま、長期間持続する状態は気分変調症(F34.T、p88)と呼ばれる。また、主に内因性のうつ病の症例で、経過中に軽い躁状態が短期間見られることがあり、米国の診断基準(DSM)では双極U型とみなされる。これらの状態の取扱いによって、統計上の数値も変わってくる。

 しかし、うつ病が増加していることは、種々の臨床統計及び日常の診療経験からも明らかである。総人口あたりの発生頻度は、従来の定説より一桁多い5%前後(10%とも言われる)と考えられている。それが生活環境の変化に伴う症状のそのものの増加か、以前は漠然と自立神経失調症、不定愁訴、神経衰弱などと呼ばれていた症例がうつ病と診断されるようになったためか、確実な判断は難しい。

 男女について、欧米諸国では女性に多いことが定説になっている。我国では男女ほぼ同数と言われてきたが、最近は女性が男性の2倍程度多いという報告が見られる。ただし躁うつ病には、諸外国とも男女差がないと言われる。
 また、内因性うつ病及び躁うつ病の発見率が、近親者で一般人口平均より多いのは当然であるが、遺伝的にまったく同じ一卵性双生児の片方が発病するとき、相手も発病する比率は50%程度で、環境その他の要因の重要さがうかがわれる。

 

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T うつ病
a 症状
(1) 身体症状
 上記のようにうつ病(内因性)はからだの病気であるから、まず身体症状が自覚され、それを主訴として受診(多くは最初に内科に)する。診断の目安および本人・家族の参考のため、もっとも頻度の高い症状三つあげる。
@ 睡眠障害
 寝つきが悪く、眠りが浅く、時には朝早く目がさめて、昼にも眠くならない(比較的稀には、夜に十分眠るのに昼も絶えず眠たい場合がある)。
A 食欲の変化
 何か食べたいという気持ちにならない。空腹感はあっても、食べたいと思わない。無理に食べると胃には入るが、好物もおいしいと感じないし、時には味そのものが分からなくなる。そのためしばしば体重がかなり減る。(しかし、稀にはかえって食欲が昂進して、特に甘いものを多く食べ、体重が増すこともある)。
B 体のだるさ
 何となく全身が重く、けだるい。体の力が抜けたようで、すぐ横になってしまう。時には鎧でも着たように重苦しい。
C その他の症状
 頭全体が重く痛む。胸が締められて息苦しい。いつも口がかわき、軽い吐き気がする。便秘がちになる。性欲及び快感が減退し、インポテンスになる。寝汗をかいて、いくども着替える。その他、多彩かつ多数。
 うつ病者は、たとえば頭痛がするために眠れず、食欲もないものだと考えて、医師には頭痛のみを訴えるようなことが多い。後述する精神病も、体の具合が悪いために元気がでないものと考えて、かなり重症のとき以外、自ら訴えることはほとんどない。

 諸報告によれば総合病院の内科の初診患者の5%前後はうつ病であるが、その多くは@軽い身体疾患、Aどこも悪いところはないので神経症、Bいわゆる怠け病と誤診される。その理由は、うつ病者が上記のようなごくありふれた身体的訴えをもって一般診療医を訪れ、自分からは精神的苦痛を述べず、一見元気そうで表情・態度に問題を感じさせないからである。そのため十分な問診をせずに、主訴の身体的検査をすすめることが誤診につながりやすい。多少の身体的所見があれば慢性胃炎、肝機能障害、貧血、更年期障害などと診断される。所見がなければ、気弱になってくよくよ心配するうつ病者の様子から、神経症を疑われる。また、自分が怠け者になったといううつ病者の嘆きをそのままうけとって、怠け病と判断される。
 最低でも精神科・神経科を受診するうつ病者の多くが、すでにいくつもの病院をまわり、時には長期間入院して精密検査を受けているのが実状である。その過ちを防ぐために、医療関係者はもとより、福祉関係者、本人・家族も、うつ病について必要な知識を持つことが望まれる。

[follow up]
「仮面うつ病」という言葉が、身体症状の仮面によって精神症状が隠されるという意味で用いられることがある。しかし実際にそれは、医師が精神症状に気づかず誤診した際の言い訳病名、あるいはうつ病は恐ろしい精神病という患者・家族の誤信に配慮した気づかい病名であって、そのような特別のうつ病が存在するわけではない。

 (2) 精神症状
 うつ病は体の病気であるが、主な症状は精神面に現れる。その様相は複雑であるが、診断に欠くことのできない中核症状を、身体症状と同じく、三つあげておきたい。
@ 関心・興味の減退
 日常生活の中で、人は特に自覚しないうちに、何かになにがしかの関心・興味を持っている。例えば朝起きると、新聞を開いて前日の野球の勝敗を調べ、町に出ると若い女性に自然に視線が向き、職場で同僚の笑い話しについ引き込まれて笑う。ところが、うつ病になると、そのようなことに気持ちが向かなくなる。何故か分からないながら、何も以前ほど興味がわかず、女性の美貌も男性の魅力も、十分には心に映らない。
A 意欲・気力の減退
 何をするのも面倒で億劫で、特に頭を使うのがいやになる。例えば朝も目がさめてから起きだすのが億劫で、やっと起きても、顔を洗い、ひげを剃り、ネクタイを選ぶのが、あるいは化粧をし、服を選ぶのが、ひどく面倒で、普段はおしゃれな人がいつも同じ格好をする。片付けが億劫で、手紙の返事が面倒で、気にかかりながら後回しにするので、仕事の山ができてしまう。
B 知的活動能力の減退
 それまで苦もなくできたことが、中々できず、途方にくれる。新聞を読んでも頭に入らず、仕事の書類をいくども読み返す。簡単なことが決められず、時間ばかりかかって能率が上がらない。主婦は夕食の献立が考えられず、スーパーに行っても何を買ってよいか分からず、つい出来合いのおかずで間に合わせる。
 これらの諸症状は、うつ病の精神症状という一つの現象を三つの面から述べたのであって、実際にはそれらが全部一緒に体験される。例えば新聞をよく読む人が急に読まなくなるのは、野球の勝敗などに興味が薄れ、活字を読むのが億劫になり、呼んでも頭に入らないためである。それを患者はただ「新聞もテレビも見ない」という。その訴えを詳しく聞きただして、はじめて抑うつ症状の共通項が見えてくる。患者によって、@あるいはA、Bが特に顕著な場合があるが、どれか一つがまったく欠けることはほとんどない。

 また、これらの諸症状は、例えば前記の悲哀反応(p40)のように、理由があって生ずる了解可能な性質のものではない。また自分で気を取り直したり、まわりから元気を出すように勧められたり、遊びに出かけたりすることによって、すぐ軽快するものでもない。このような症状の内容が了解できず、働きかけによって影響を受けないことは、うつ病が体の病気であることを示す特徴といえる。
C その他の症状
 うつ病者が普通診察室で口にするのは、すでに述べたように、中核症状全体及びそれらの二次的に派生した、日常生活の具体的な苦痛である。例えば、仕事が何も出来なくて情けない(無力感)、皆が出来るのに自分だけ出来ず残念だ(劣等感)、家族や同僚に迷惑をかけている(自責感)、本当にすまない、申し訳ない(罪責感)、こんなことでは将来も見込みがない(自信喪失)、それを思うと恐ろしくて、じっとしていられない(不安)、一人で焦って、いらいらしている(焦燥感)、自分にも周囲にも無性に腹が立つ(易怒傾向)、つくづく悲しくて涙が出る(悲哀感)、何とも言えず淋しい(寂寞感)など。
 このような抑うつ症状がいっそう強まり、あるいは長く続くと、患者は学校・職場に行くのが辛く、少しでも楽になりたいと思い、将来にも自信を失って、周囲の意見を聞くゆとりもないまま退学届・辞表を出す。
 あるいは、毎日が味気なく、生きていてもつまらない、死んだほうがましだ、死んだほうがよい、死にたい、という気持ち(自殺念慮)が進んで、一日中死ぬ方法ばかり考え、ついにそれを実行することがある(自殺企図)。特に早期及び回復期には、その危険が大きい。
 あるいは比較的稀であるが、自分が貧乏で、病院の支払いも出来ない(貧困妄想)、罪深い人間で、警察が捕まえに来る(罪業妄想)、間違いなく癌になって、余命いくばくもない(心気妄想)などの信念をいだき、説得にも応じないことがある。また、いっそう稀であるが、これらの感情の状態に相応ないし相応しない内容の幻覚が生ずることもある。それが持続するときは、後記の統合失調感情障害(p110)に分類される。

 これらの精神症状に関して、注意すべき点が二つある。すなわち、@うつ病者がいかに憂うつな表情で、口数も少なく、うなだれているというのは、かなり重症のうつ病の場合のみで、絶対多数を占める軽症うつ病者は、苦痛に耐えながらも相手に気取られぬように努力して、なめらかに話し、にこやかに笑顔を浮かべて応対することである。そのため家族・同僚・診察者も、本人がそれほど苦しんでいるとは思わない。それが上記の誤診をまねき、突然の退学届・辞表・自殺企図に周囲が驚くこともある。
 次は、Aうつ病者が、自分は取り柄のない怠け者で皆に迷惑を掛けていると言うとき、実際には優れた才能を持ち、勤勉で、皆に尊敬を集めていることを、言葉を尽くして説明しても、容易に納得しないことである。過去の成功の事実を示しても、それはただのまぐれ当たりであるという。すなわち、うつ病者は原則として病識を持たない。
 ただし、うつ病の周期を繰り返すと、現在の自分の判断が病気のためであることを、時には不完全ながら、認識するようになる。

 

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 (3) 日内変動
 うつ病の身体・精神症状を通じて見られる特有な変化に、日内変動が挙げられる。それはうつ病に必発ではなく、程度もさまざまであるが、多くの症例にかなり明瞭に認められる。しかし、前記の神経症の抑うつ状態や悲哀反応(p25.40)、後述する脳器質疾患の抑うつ状態(p15.3.157.170)には、原則として見られない。したがって、もしそれが確認されるなら(確認できなくとも否定はできないが)、内因の関与の大きいうつ病と診断できる。
 その変化は、身体・精神症状全体が、朝目をさましたときに最も悪く、次第に軽快して、夕方から深夜には相当回復するものである。極端な場合には、朝どうしても起きられず、朝食も口にできず、午前中はそのまま床についているが、昼には何とか起きだして、多少食事を取り、洗濯機も回し、夕方に家族が帰るとほっとした気分になり、まがりなりに食事を支度して、自分も食べ、テレビを見て、少し笑うこともでき、夜が更けるにつれていっそう元気が出て、明日からはきちんと生活しようと決心して寝るが、眠りが浅くて、翌朝は元に戻り、ひたすら自分の意思薄弱を嘆く、というパターンをとる。
 軽症例でも、午前中は頭がはっきりせず、午後から能率が上がり、夕方以降は比較的快調という場合が多い。ただし、これを健康人の夜型の生活リズムと混同してはならない。


b 症状のおきかた
 抑うつ状態がさまざまな要因によって生ずることは本章のはじめ(p75)に述べたとおりであるが、いま日本の一般市民の間では、うつ病は几帳面で真面目な人が無理をして疲れると起きる。という考えがかなり広く行き渡っている。事実そのとおりであって、その際の抑うつ症状には、神経症の抑うつ状態(p25)と違って、上記のうつ病の中核症状が認められる。しかし一方では、特別のストレスもなく無理もしていないのに、同じうつ病の症状を反復する人がいる。この一見矛盾する事情を、どのように考えたらよいのであろうか。

(1) うつ病の誘発:性格と環境と生理的誘因
 日本では早くから下田が、ドイツはのちにテレンバッハが、それぞれ独立に、うつ病に関係深い性格傾向として、執着性格とメランコリー型性格を記載した。両者は発想も視点も異なっているが、具体像はよく似通っている。すなわち、几帳面、真面目、熱心、良心的、周囲に気遣いをする努力家などの諸特徴である。
 そのような性格の人は、仕事にも一生懸命取り組んで適当に休むことをしないので、のんびりした人より、知らぬうちに心身のストレスが生じやすい。例えばそのような人が会社で信頼され、早く支店長に昇進して、任地におもむいたとする。彼は持ち前の几帳面さから、慣れない仕事も完全にやりとげようと努力するうち、1〜2月たつころから妙に疲れて、能率が上がらなくなる。それを取り返そうとして無理を重ねると、ますます頭が働かず、億劫さがつのり、体の不調が現れて、定型的な抑うつ状態に陥る。しかし、任地を離れて1〜2カ月休養し、抗うつ薬を服用すると、非常によく回復する。すなわち、このタイプのうつ病の発病には、性格や生活状況や時間的経過などの多くの要素が、ストレスを蓄積させ、症状の誘発にかかわっている。
 同じように、住み慣れた家から引っ越して、さまざまな疲労や心労が重なったとき(引越しうつ病)、定年になって、知人もいなくなった故郷に帰り、新しい生き方に悩むとき(定年うつ病)、そのほか転職、長期出張、結婚、離婚、子供の独立など、種々の生活の変化が、その人の性格や生活状況と関連して、うつ病を誘発することがある。
 さらに一方、もっぱら身体的なストレスと考えられる感染症、外科手術などに引き続いてうつ病が生ずることもある。以前からうつ病を経験した女性が、出産のあと高率にうつ病の再発を見ることは、早くから知られている(出産後うつ病)。
  このように生理・社会・心理的ストレスの後にも、それが何もないときにも自然に、うつ病が発現する現象については、前章で述べた心身症のモデルを用いて、次のように考えておきたい。

(2) うつ病の身体的背景とストレスの影響
 まず、うつ病が精神症状を主とする体の病気であることに注目する。うつ病が身体疾患であるという証拠は、三つ挙げられる。すなわち、@前記の身体・精神症状の内容や経過は、心理的に了解できず、身体的変化の存在を前提としてはじめて説明できる。A神経伝達物質のセロトニンあるいはノルアドレナリンのシナブス前膜の再取り込みを抑制するか、その分解酵素を抑制することにより、これらの神経伝達を促進する薬理作用を持つ薬物が、うつ病に特異的に奏功する。B反対にこれらの神経伝達物質を消失させるレセルピンが、抑うつ状態を引き起こす(したがってうつ病の患者では、神経系のセロトニンやノルアドレナリン「両者ともモノアミンの一種」の作用が低下しているという、モノアミン仮説が提唱されている)。

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 脳には約150億の神経細胞があって、電線のような枝をだして、次の神経細胞に情報を伝えている。その情報伝達の接続場所はシナプスと呼ばれ、そこで前の神経細胞のシナプス前膜からそれぞれ独自の神経(刺激)伝達物質が放出され、後の神経細胞のシナプス後膜の受容体に結合して、刺激が伝達される。シナプスに放出された神経伝達物質は、すぐシナプス前膜に取り込まれるか、酵素により分解されて、作用を失う。したがって薬物で再取り込みや分解を抑制すると、神経伝達物質の働きが高まることになる。セロトニンとノルアドレナリンは、多くの神経伝達物質の中でも、特に睡眠・食欲・感情などのコントロールに関連が深い。

 ところで、神経伝達物質はもともとホルモンと同じ系統の物質なので、前章の心身症の項で記したように、生体に加わる物理・化学・生理・社会・心理的ストレスによって、さまざまな程度・方向・期間の変化をきたす。一方本章のはじめに述べたように、うつ病は高血圧などと同じ多因子遺伝病と考えられる。したがって、遺伝体質的素因が大きいと特別の誘因がなくとも症状が起きるが、生理・社会・心理的ストレスによって神経伝達物質の代謝に変化が起き、その結果、抑うつ状態が誘発されることも十分考えられる。前記の出産後うつ病や執着性格の人が過労したときの抑うつ状態は、非特異的ストレスが神経伝達物質の代謝に影響を及ぼして、抑うつ状態を誘発する代表例とみなされる。
 ちなみに、本章のはじめに述べたように、うつ病とは別の病気、例えば統合失調症や老年痴呆などでも、抑うつ症状がしばしば見られる。これは、その病気によって、上記の神経化学的変化が起きるためと考えられる。
 最後に、抑うつ状態の誘発に関連して、臨床の場で生じやすい誤診例にふれておきたい。それは家庭・学校・職場などで困難な問題が起きて悩みが深まり、そのために抑うつ状態に陥ったと本人も周囲も思い込んでいるとき、よく時間的経過を聞きだすと、実際に最初に軽い抑うつ症状が始まって、家事・勉強・仕事がとどこおり、そのために困難な問題を生じている場合があることである。これは原因と結果のとり違いであるから、十分に注意しなければならない。

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 最近、うつ病と関連して、過労自殺が労務災害と認定される例が増えている。本人を診察することができないため、その判断はしばしば困難であるが、以下のような点が参考になると思われる。
@過労は必要条件であるが十分条件ではない。残業の時間数などのみを基準に判断してはならない。
A自殺の原因として、抑うつ症状の存在をできるだけ確実に推定する必要がある。またその誘因も複合的に捕らえねばならない。上記執着気質(p84)の存在は、必ずしも必要ではない。
 Bすでに生じたうつ病によって、能率が低下して仕事がはかどらないために残業が増え、あるいは簡単なミスを深刻に心配するような場合もある。抑うつ症状を早く見出すとともに、原因と結果を取り違えない注意も必要である。(p66)。
 Cこの悲劇を防ぐ最良の方法は、予防と早期発見、早期治療である。職場の責任者は、従業員の健康について、身体面のみならず精神面にも、知識と関心をもって管理に当たらなければならない。
 Dうつ病者は最初は自分を病気と思わないことが多いが、一度経験し知識を持つと、自分で管理できるようになる(p82)復職時ないし再発時には、職場や家族の理解と支援が特に大切である。

c 症状の重さ・経過・病型
 気分障害は、次に述べる統合失調症に比べて、症状の内容は個人差が比較的少ないが、その重さや経過はさまざまである。

(1) 症状の重さ
 全体として見れば、うつ病者の大部分は、自覚的な苦悩は、はなはなだしいものの、外来で服薬治療が可能である。家族は本人がそれほどつらい体験をしているとは気づかず、職場でも少し疲れているようだという程度に受け取られていることが多い。
 しかし重症となると、通常の勤務が困難で、主婦の場合も掃除・洗濯ができず、テレビもつけず、電話にも出られない。その頃から自殺を思う時間や深刻さが増してくる。家族がいつも一緒にいるなら外来で治療できるが、情況によっては入院が必要になる。
 また、比較的稀ではあるが、症状が一層重くなると、ほとんど口もきかず、表情も乏しく、一日中横になって、将来について悲観的なことばかり考える。時には上記の心気・貧困・罪業妄想が訴えられる
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 ICD−10では、うつ病の「典型的症状」として、@抑うつ気分、A興味と喜びの喪失、B活力の減退をあげ、さらに「その他の症状」として、@集中力と注意力の減退、A自己評価と自信の低下、B罪責感と無価値感、C将来に対する希望のない悲観的な見方、D自傷あるいは自殺の観念や行為、E睡眠障害、F食欲不振を指摘し、このうち典型的症状が少なくとも二つ、その他の症状が少なくとも二つあるときは軽症、同じく二つと三つの時中等症、同じく三つと四つのとき重症、さらに妄想が見られる場合は精神病症状を伴う重症うつ病とみなして、全体をF32.0〜3に分類する。
 しかし、統計的な検討の際は別として、実際の臨床で重要なのは、症状の数よりも個々の症状の重さ、患者の性格や生活情況、家族や職場の理解や協力態勢、そして薬物への反応性などである。

 

 藤掛雄山作 赤絵山水鉢

 散歩の途中、青空と柿の木

 

 (2) 経過と病型
 うつ病はもともと周期性の病気である。したがって経過も病型も、この周期の長さや頻度によって分けられる。
 この周期は普通1〜数ヶ月、時には数年間続く。ICD−10は、抑うつ状態が原則として2週間以上見られるとき、はじめてうつ病と診断することを勧めている。後述するように、抗うつ薬は普通1〜3週間のうちに、うつ病の諸症状を顕著に改善する。しかし、うつ病の周期まで短縮することはできない。したがって服薬の終了は、慎重に行わなければならない。
 この周期は、多くの場合、完全ないしほぼ完全に消失する。その後、また同じ周期が起きるか否かは、簡単に予測できない。しかし、統計的には一生のうちに数回起きる場合がおおいので、その心づもりで用心しておくほうがよい。周期が2回以上起きると、ICD−10では反復性うつ病性障害(F33)と呼ばれる。
 一方、特に内因性うつ病の経過中(時には抑うつ症状に先立って)に、しばしば前記のパニック障害(p33)が併発する。それによってうつ病者がいっそう不安にかられ、絶望感を強めることもあるので、的確な診断と敏速な治療が求められる。
 明らかな生活上の誘因によって発病したとき、あるいはいつも同じ生活状況により周期が反復するときは、生活のあり方を工夫しなければならない。それは前述の高血圧で塩分摂取量と体重が問題になるとき、それを改める努力が必要なのと同じである。
 今患者・家族及び医療者を悩ませているのは、治療によっても症状がはかばかしく改善しない、いわゆる遷延性うつ病である。これも高血圧と同じく、遺伝素因・性格・生活情況などが関係している場合が多い。

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 気分変調症(F34.1)また周期が収まった後に、仕事も交際も一応できるが、活気、明るさ、意欲などが今一つ足りず、体の具合もはっきりしない状態が続く場合がある。ICD−10では、前記のうつ病の診断基準を満たさない程度のごく軽い抑うつ症状が数年にわたって続く状態に対して、気分変調症という項目を設けている。はじめからうつ病の周期を経験せず、この状態のみ続くこともある。有名なシュナイダーの性格分類で抑うつ者と呼ばれる陰気な人も、ほぼこの状態に含まれる。内因、性格傾向、生活状況などの諸要因は、差し当たり診断の条件には含めない。

 その他の病型
 その一方で、明瞭な抑うつ状態がICD−10の診断基準の2週間より短く、しばしば1〜数日間の周期で、ほとんど毎月のように反復する症例が経験される。(反復性短期うつ病性障害:F38.10)。
 気分変調症とこの反復性短期うつ病は、抑うつ症状の重さ・期間・頻度の違いが、それぞれ極端な形で現れたものと考えられる。
 その他、秋が深まって11月頃から抑うつ症状が始まり、翌年の3月〜4月ころには回復に向かう季節性うつ病が時折見られる。その際、睡眠過多、食欲昂進を示し、精神症状も意欲減退を主とすることが多い。抗うつ薬があまり奏功せず、光照射療法(2.000ルックス程度の照明を1〜2時間毎日みて、覚醒・睡眠リズムを整える)が有効なことから、うつ病の病態研究の面でも興味が持たれている。しかし数年間の経過のうちに季節性が不明瞭になることも多く、睡眠や食欲の増加は季節と関係のないうつ病の経過中にも見られるので、病型の特異性については、慎重な判断が必要である。

 

 青空とモミジ

 梅の木 蕾だけ!

 

 P94
うつ病に使用する薬物
 抑うつ症状に有効な抗うつ薬は、非常に数が多く、最近も開発が進められている。それらを次の3群に分けて、簡単に説明する。(商品名や常用量は巻末の一覧表を参照。p307)
 第1群は、最初に開発された3環系坑うつ薬で、イミプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、などがある。抗うつ作用は強いが、口の乾き、眠気、立ちくらみ、目のかすみ、時には便秘、排尿困難などの副作用(シナプス後膜のアセチルコリン、ノルアドレナリン・アルファー1、ヒスタミンなどの神経伝達物質の受容体を遮断するため起きる。詳細省略)が多いため、十分な用量を使いにくいことがある。
 第2群は、4環系坑うつ薬その他で、上記の副作用の軽減をめざして開発された薬物である。マプロチリン、アモキサピン、ミアンセリン、セチプチリン、トラソドンなどがあり、副作用は比較的少ないが、なお十分とはいえない。
 第3群は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、いま日本ではフルボキサミン、パロキセチン)と選択的セロトニン及びノルアドレナリン、再取り込み阻害薬(SNRI、いま日本ではシタロプラム)である。上記の副作用はほとんどなく、使い始めの1−2週間に時折吐き気がみられる程度である。坑うつ効果は従来の薬剤にほとんど劣らないため、急速に普及して、現在ではうつ病に対して最初に使用されることが多い。
 もともと第1群及び第2群の薬物も、その坑うつ効果は(例外もあるが)シナプスに放出されるセロトニンあるいはノルアドレナリンのシナプス前膜への再取り込み(p85)を抑制して、シナプス中の濃度を高める作用があることが知られていた。第3群の薬物は、選択的にその効果のみを持つように作られたものである。
 以前から、第1群及び第2群の薬物の中でも、セラトニン再取り込み阻害作用の強いクロミプラミンやトラソドンなどと、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用の強いマプロチリンなどのあいだで、特に坑うつ効果には差異がなく、また患者によってどちらかの薬物が特に有効という違いもないことが経験的に知られている。(ただし、前章で述べたパニック障害、強迫性障害、摂食障害などにはセロトニン再取り込み阻害作用を持つ薬物のみが有効で、SSRIやクロミプラミンが使用される)。
 前記の服薬前の説明を十分行って、患者・家族の理解を得たうえで、早速に坑うつ薬を処方する。上記のたくさんの坑うつ薬には、坑うつ作用の程度及び効果発現の速さに関して、(各医師の個人的印象は別として)特記に値するほどの大きな違いはないといえる。したがって、主に副作用に注意して、使い慣れた薬を用いるのがよい。

 実際には、副作用の少ない上記の第3群のSSRIあるいはSNRIが、よく使用される。いずれも少量から開始して、できるなら3日、おそくとも1週間後に、副作用の有無や程度を確かめて、必要十分な用量(p307)まで増量する。抑うつ症状は本人の苦痛が甚だしく、坑うつ薬の効果発現までに時間がかかるので、できるだけ急いで対応する必要があるからである。その際、薬品名を知らせ、作用及び副作用をよく説明することは、神経症の場合と同じである。
 また、うつ病患者は不眠や不安に苦しむことが多いので、前章に記した坑不安薬や睡眠薬を必要なだけ与える。
 第1及び第2群の坑うつ薬は、上記の副作用とともに、適度の鎮静作用を持っている。特に苦悶感、いらいら感が強い症例には、SSRIやSNRIにアミトリプチリン、マプロチリン、ミアンセリンなどの少・中等量を併用すると、よい結果が得られることがある。
 さらに症状が重くて、身の回りの生活がほとんどできない状態、あるいは自殺の危険が憂慮される場合には、時期を失せず入院の手続きを取ることは前記のとおりである。その後は、情況に応じてクロミプラミンの点滴や電気痙攣療法(p124)などを行う。
 また入院に至らない程度で、なお緊急の対応が必要と思われる場合には、外来で通常の服薬と同時に、クロミプラミンの点滴を5ないし7日程度毎日行うと、しばしば急速な改善が見られる。
 

 姫こぶしの木

 宇都宮市清原工業団地のメインストリート

 

 井上 浩 著 労災保険法 p69
 よく「業務遂行性」と「業務起因性」という言葉が使用されることがあるが、「業務遂行性」は事業主の支配下ある状態を示し、「業務起因性」はそれと災害との間の因果関係を示す言葉で、業務災害に該当するかどうか調査する際等に便利であり、そのため二要件主義と称されたりすることもあるが、厳密に言えば業務起因性がみとめられれば業務災害に該当するということになる。
 現在の労働省のとっている相当因果関係説では平均以下の体力や精神力の状態にある労働者の災害は救済できない。例えば上司の叱責により自殺した労働者の場合に、もし、労働者が強度の「うつ」状態であった場合には業務災害として救済すべきではなかろうか。現実に生きているのは平均人だけではない。体力の弱い労働者が15キログラムの物を持って腰痛になったら、業務災害として保険給付を行うべきであろう。個別事情の尊重である。水野勝教授もそれを主張されているが賛成である。(日本労働法学会誌76号「労災補償法の理論的課題」25ページ)日本国憲法13条にも個人の尊重が掲げられている。民法416条の2項には特別の事情による損害賠償についての規定があるが、労災保険の業務災害についても通常の因果関係(相当因果関係)のほかに、特別の因果関係も認めるべきであろう。
 しかし、労働基準法が個別の使用者の災害補償責任を規定しており、おまけに罰則規定もあるので、原因結果の関係について解釈の拡大ができないというのであれば、労災保険法を改正して労働基準法と遮断すべきであろう。そして、労災保険法は労働基準法と違い、個別使用者の災害補償責任でなく、事業主全体としての災害補償責任を保険するものだということを明らかにすることである。そして、「業務に通常伴う危険」も個別事業主単位で判断せず、事業主全体の立場で判断することにしたらどうかと考える。そうすれば新幹線のぞみ号殺人事件も全事業主の立場で見れば起こり得る災害として、審査請求にまで持ち込むこともなく、もっとすんなりと業務災害の中に取り込むことも可能だったのではなかろうか。


P109 (自殺)
 自殺は自分の意思により死亡するのであるから、本来は業務には関係がない。だから、労災保険法12条の2の2第1項にも、労働者が、故意に死亡又はその直接の原因なった事故を生じさせたときは、政府は保険給付を行わないと規定している。労働省は、この規定は「業務上とならない事故について確認的に定めたもの」(昭40・7・31 基発901号)と説明している。したがって、もともとなくてもよい規定であるから、旧労災保険法はもとより、現行の労働基準法や公務員災害補償法にもこのような規定はない。
 しかし、自殺を企図したことと、業務との間に何らかの因果関係があると、自殺は簡単に業務外と割り切れない場合が生じてくる。例えば、仕事上の失敗を苦にして自殺した場合には、自殺の原因は100パーセント業務であるといえないこともない。そこで労働省は、「被災労働者が結果の発生を認容していても業務との因果関係が認められる事故については」(前同通達)業務災害に該当するとしている。
 では、業務との因果関係が認められる自殺にはどのようなものがあるかというと、まず一つは、自殺と業務との間に「うつ病」が介在しているときである。すなわち、業務による心身の負荷により「うつ病」になった場合には、その「うつ病」は業務上疾病である。ある研究によると「うつ病」患者の自殺はそれ以外の自殺者の36倍にも達するということだから、「うつ病」患者の自殺は「うつ病」の症状の一つであるとも言える。したがって、仕事の重圧→うつ病罹病→自殺願望→自殺ということで、結果的に自殺が保険給付の対象となる。この
場合には自殺でなく、うつ病が業務上(疾病)ということである。労働省の行政解釈にも反応性うつ病による自殺未遂による両下肢切断を業務災害と認定した例がある。(昭59・2・14 基収330号)。なお、配転をきっかけにして自殺した例についてうつ病だとしても業務外とした裁決がある(労働保険審査会 平7・2・14)。
 次に、業務上の負傷や疾病を苦にして自殺する場合がある。この場合にもその傷病と自殺の間の因果関係が問題になる。前述したところと同じように傷病と自殺の間にうつ病が介在することもあるが、労働保険審査会裁決に、現在の医学では根本的な治療法のない塵肺患者が、療養中に更年期うつ病に罹患して自殺したのは業務上とした例がある(昭44・労45号)。また、脊髄完全断裂を伴う重傷の労働者がうつ病状態になり、受傷後57日目に自殺したのを業務上とした例がある(平3労249号)。塵肺患者の自殺でも、精神に異常がなかったとして業務上とされなかった例もある(平2労180号)。
 労働省の一般的な考え方は、「自殺が業務上の負傷又は疾病により発した精神異常のためかつ心神喪失の状態で行われ、しかもその状態が当該負傷又は疾病に原因しているときのみを業務上の死亡として取り扱われたい」(昭23・5・11 基収1391号)というのであるから、かなり厳しいと言える。
 判決には、塵肺患者の自殺について、「本件自殺は、脳動脈硬化症と共働して、けい肺結核症による死の恐怖や不安感並びに歩行時の身体的苦痛という心因によってもたらされた抑うつ状態が、長期にわたって希死念慮を形成し、自殺の準備状態を用意するなかで、自殺直前の原告らとの通院や印鑑を巡る遣り取りなどの些細な出来事が切っ掛けとなって、敢行されたものと認めるべきである。したがって、Tのけい肺結核症と抑うつ状態との間、また抑うつ状態と本件自殺との間には、それぞれ相当因果関係があるものと解すべきである。」(佐伯労基署長事件・大分地判平3・6・25労判592号6頁)として、業務上としたものがあるが、「明確かつ強度な因果関係があるものということはできない。」(福岡高裁判平6・6・30体系労災保険判例総覧第2集)として控訴審判決で取り消されたものがある。
 次には、業務災害の発生状況や、業務に関係した周囲の異常な環境等が原因で精神が異常な状態になり、正常な判断をすることが不可能になって自殺に走ることがある。たとえば、交通事故を発生させた直後に、人間や大事な荷物等を損傷したことを苦にして自殺する例がある。このような場合に、文字どおり事故発生の「直後」に自殺した場合には業務上とされる。直後というのは、通常は20分程度までだろうか(昭42労62号)。心が平静になり得るような時間が経過するとだめということだろう。業務に関係した異常な環境により自殺に至った例には、旧ソ連に拿捕されて拘禁中に自殺した船長について業務上とした裁決がある(昭52労186号)。では、仕事に失敗したことを苦にして自殺した場合にはどうだろうか。そのようなことは通常あり得ないので、労働省的に考えれば相当因果関係がないということで業務外だろう。経験則上、自殺の危険が通常伴うような業務はないからである。この場合には、業務を原因とした「うつ病」が介在していないと業務上認定されることはまず困難である。現在の労働基準法8章に規定する災害補償と労災保険法が連結されている以上、相当因果関係の呪縛から逃れることは困難であると言わなければならない。しかし、本来は保険給付の対象としてもよいのではないだろうか。
 

 ケヤキの並木通りです。

 宇都宮市文化会館の噴水

 

P114 慰安行事
 運動会に出場中に転倒して受傷するとか、慰安旅行中に乗船した船が沈没して死傷するということがある。運動競技会出場については、一般的な認定基準が労働基準局長通達(昭32・6・3基発465号)として出されている。内容は次のように分類して述べられている。
@ 事業を代表して対外的な運動競技に出場中に蒙った災害
A 同一企業に属する各事業相互の運動競技会に出場中に蒙った災害
B 事業内の運動競技会に出場中に蒙った災害
C 運動競技会に出場のため準備練習中に蒙った災害
 どの場合にも次の条件に該当しているときに業務災害とされる。
@ その運動競技会に労働者を出場させることが、事業の運営にとって社会通念上必要と認められること。
A 出場について事業主が積極的特命であると強制があること。
 国家公務員災害補償法の場合には「職員がその所属する官署の長の支配管理の下に実施されるレクリェーション行事」(昭48・11・1職厚−905)への参加、地方公務員災害補償法の場合には「任命権者の支配管理の下に行われるレクリェーション」(昭48・11・26地基補539号)への参加が対象となっている。この場合には「参加」者の災害が公務災害となるが、参加には応援も含むとされている(昭48・11・26地基補542号)労災保険の扱いより若干ゆるいような感じだ。
 次に慰安旅行であるが、これについては一般的な認定基準はない。参加者が事業主の支配化にある状態であれば旅行自体が業務ということになり、それに参加することにより発生した災害は業務災害となる。しかし、そのような業務に該当するといえるような慰安旅行はあまりないのではなかろうか。会社の常務取締役が引率した慰安旅行で、艀が沈没して従業員が溺死した災害を業務外とした労働省の行政解釈がある(昭22・12・29基発516号)。しかし、労務管理政策の一つとして行われる旅行で、参加者も積極的な強制こそないが、職場での交際等を考えて消極的な気持ちで参加する場合もある。このような場合に事故が発生すると、それに対する補償について微妙な感情が流れることもある。現在のところは参加者全員について業務と見ることについては困難であるが、滝見物中に転落した世話役や(昭55・1・31裁決)、釣船から転落死した幹事役(昭53・11・30裁決)の災害について業務災害に該当するとした労働保険審査会採決がある。世話役や幹事役は会社の業務を遂行していると認めたものである。それ以外の一般参加者については、研修旅行を兼ねている場合等のように、業務との関連が認められない限り業務災害となることは困難だろう。しかし、海外慰安旅行等も増加してきているようであるし、今後十分検討する必要がありそうである。

P125 安全配慮義務違反との関係
 過労死の場合には、高血圧の労働者に長時間労働を行わせたために病勢が悪化した例等があるが、もし、労働安全衛生規則61条1項3号(病者の就業禁止。労安衛68条)違反が明らかであれば業務起因性を推定してもよいのではなかろうか。
P126 認定基準
 労災保険の給付請求書が提出されると、労働基準監督署長は、業務上外の認定基準が設けられているものについては、認定基準により業務上外を判断する。認定基準は労働省労働基準局長通達であるから法ではない。その拘束を受けるのは労働省労働基準局長の指揮監督下にある下級官庁(職員も含めて)だけである。したがって、労働大臣の所轄の下に置かれている労働保険審査会(労審25条1項)は当然のことながら拘束を受けない。しかし、都道府県労働基準局に置かれている労働者災害補償保険審査官は、労働省によると認定基準の拘束を受けるという(昭31・8・1発総21号)。都道府県労働基準局長や労働基準監督署長が拘束を受けるのは当然であるが、認定基準に反した処分を行っても行政処分としては法的に有効である。例えば、認定基準には20キログラム以上の重量物を扱っている場合のみ業務上の腰痛として認めるとあるのを、労働基準監督署長がそれよりも軽い15キログラムの重量物取扱いについて認めて、保険給付の支給決定を行ったとする。その場合でも署長の支給決定は有効で、請求者から支払い請求があれば、政府は支払わなければならない義務がある。ただし、上級官庁である労働省労働基準局長の命令に従わなかった署長は、国家公務員法98条1項に規定されている上司の職務上の命令に忠実に従う義務に違反しているということで、同法82条に規定されている免職以下の懲戒処分を受けることを覚悟しなければならないということである。この認定基準については当初はあまり強調されなかったようであるが、労働者側の腰痛、頸肩腕症、鉛中毒等に対する認定闘争が激化した頃から、認定基準は通達の形式をとった命令であるということが強調されるようになったようである。したがって、認定基準による業務外認定(法律的には不支給決定)が行政訴訟で労働省側が敗訴しても、その敗訴した事件以外の業務上外判断に影響することは全くない。労働基準監督署長が業務上外判断の考え方を変更するのは、認定基準が出されているものについては、その認定基準が改正された場合だけである。このことがよく分からない人がいることは驚くほどである。世間でさわがれるほど、判決結果は労災保険担当者に影響を与えないようである。労働省は敗訴した場合には高等裁判所までは大体控訴するようである。この高裁判決までには最初の保険給付請求後大体10年はかかっているので、最初の不支給決定者は判決の頃には数ヵ所異動し、勤務場所も職務内容も変わり、中には退職している人もある。したがって、不支給決定者本人もほとんど忘れているのではないだろうか。(不支給決定が労働保険審査会や裁判で取り消されても、担当官も署長も成績その他に全く影響しない。審査や裁判が長期化しているので、成績に影響させようとしても不可能である。)そのようなことで、裁判闘争により認定基準を変更に持っていかせることも、もとより大事であるが、できれば最初の請求の段階で認定基準をよく検討し、その考え方に沿って請求書を作成することができればそうした方が請求者にとって有利である。認定基準と違う理論構成により請求しても、労働基準監督署長は裁判官とは違い行政官であるから、認定基準があればそれに従わなければならない。したがって自由な判断を期待しても無理である。しかし、どうしても認定基準の考え方に従えない場合には、請求者として裁判も考えたうえで、認定基準の矛盾点を突き新しい理論により業務災害であることを主張するということになろう。過労死の認定基準について「右は、行政通達として行政の事務促進と全国斉一な明確かつ妥当な認定の確保を図り、労災保障保険給付申請者の立証責任を軽減するための簡易な基準であるから、行政処分の局面で右基準に該当する場合にはそれ以上の立証なしに業務上認定が受けられることは当然としても、発症前1週間以内の線引きは、医学的根拠というよりは、むしろ行政通達としての明確性の要請によるものと考えられるから、業務外認定処分取消訴訟の場においては、医学的に未解明な部分の多い脳血管疾患及び虚血性心疾患等について、右基準に拘泥することなく、基準にない事由と労働者の死亡との間の相当因果関係が認定されることは十分あり得るものと考えられる。」(飯田労基署長事件・長野地判平7・3・2労判671号46頁)という判決があるが、行政通達の本質をよく突いているようである。

 岐阜県瑞浪市の市立瑞浪中2年の女子生徒(14)が「いじめ」を苦に自殺した問題で、同校が全生徒を対象に実施したアンケートに、女子生徒がいじめられている現場の目撃証言が計39件挙がっていたことが3日分かった。
 このほか、苦しんでいることをうかがわせる女子生徒自身の言動などに関する証言も7件あった。
市の教育委員会からアンケート結果を伝えられた遺族によると、証言には直接目撃したものと伝聞があり、大半がバスケットボールのクラブ活動中。「うざい」や「きもい」など言葉によるいじめが20件、「わざとぶつかる」「ボールを体にぶつける」などの暴力が9件、あいさつを返さないなどの無視が10件だった

 

 研修会後の「忍」の田舎料理 美味いっすよ!

 冬の終りのあぜ道焼き 

 

06.11.4. 下野新聞・スポニチ

突然行き場を失った若者が自ら命を絶ってしまう。つまり「いじめ」という言葉は、学校で起きている極めて深刻な状況を正確に伝えていないばかりか、逆に憂慮すべき事態を軽度なものとして伝えてしまっていた「詐術の言葉」なのです。ならば「いじめ」の本質とは何か。それは「脅迫」「虐待」「暴行」であり「殺人」などの犯罪なのです。 06.10.5. スポニチ 美輪明宏 一部抜粋

福岡県筑前町の三輪中2年の男子生徒(13)自殺事件でも、「安定した学校」と映っていた。バレーボール部に所属していた生徒も、きちんと挨拶する少年で、同級生らから「キモイ」「目障りだ」と言われても笑顔を絶やさなかったという。このため、いじめていた生徒の一人は「笑っていたからいじめになるとは思わなかった」と振り返る。 06.11.4. 読売新聞 一部抜粋

 中学生の7割にストレス
 中学生の70%近くが日常的にストレスを感じ、中でも友人の悪ふざけや悪口に感情を害していることが、進学塾「栄光ゼミナール」を展開している「栄光」(本部東京)の塾生アンケートで分かった。
 「カチンとくる一言」を聞くと、男女とも「死ね」「うざい」「バカ」「キモイ」などが上位に並び、イジメが社会問題化する中、学校や塾などで「心ない言葉」に傷つく子供の現状が浮かんだ。
死ね・逝け・バカ・キモイ・キモッ・気色悪い・気味悪い・気持ち悪い。「男」
うざい・うざっ・何かうざくない・キモイ・きしょい(気色悪い)バーカ・バカじゃないの・死ね・死んでしまえ・はっ・はぁ・「女」
 

 さつき 新木 これが盆栽になるか?

 露天風呂 部屋付です!いつでも自由に!

 

06.11.12.下野新聞
口撃が相手側にどのような心理的負荷を与えるか、全く理解していない社会であること。いわゆる「イジメ」現象と同じ感覚である。「脅迫」「虐待」「暴行」による「犯罪」であり、このような社会であるから、「うつ病」発症となるのである。
 山下格医師(北海道大学名誉教授)の「新版 精神医学ハンドブック」(日本評論社・1997年)内因性うつ病と反応性うつ病
かつては、うつ病を「内因性うつ病」と「反応性うつ病」に二分し、前者は患者の素因により発病する場合で、後者は外的な環境因子によって発病する場合であると説明されることが多かった。しかし、内因性うつ病と言っても、外的なさまざまなストレスが発病の誘因となることにほぼ異論がなく、今日では、このような二分論は精神医学においてもあまり使用されなくなってきている。
 ちなみに山下格医師は、「うつ病」を心身症や神経症と異なり「主に内因によるもの」に分類しているが、うつ病は「特殊な遺伝疾患ではなく、あくまでも普通の病気である。」「ほかの成人病と同様に種々の程度の体質があるが、精神的ストレスを含む環境要因によって大きな影響を受ける」と指摘している。
 厚生労働省は、この二分論を前提にして、「内因性うつ病」などの「内因性精神障害」は労災補償の対象にならない、という考え方をひきずっており、このことが自殺者の労災認定の幅を狭める一つの壁になっている。川人 博 著

「過労自殺」より抜粋

(労働組合の役員等)
 標記については、昭和44年度より、下記の通り取り扱うこととしたから、関係労働組合に対し周知指導のうえ、これが事務処理に遺憾のないようされたい。

一 労働組合の執行機関及び監査機関を構成する者〔労働組合の代表者を除く。以下「組合役員」という。〕であって、当該労働組合の業務に専ら従事するもの〔以下「専従役員」という。〕については、当該労働組合に使用される労働者とみなして取り扱うこと。
  したがって、労働組合が使用する一般労働者と、この取扱いによって労働者とみなされる者の合計が常時5人以上の場合には、強制適用事業として取り扱うこと。
  なお、概算保険料報告書の提出の際には、あわせて、この取扱いによって労働者とみなされる専従役員全員の氏名及び役職名を記載した名簿を届け出させ、当該名簿によって保険加入の事実を明確にしておくこと。また報告された名簿の記載事項に変更があった場合には、その都度速やかに届出を行わせること。
二 労働組合の代表者及び組合役員であって当該労働組合の業務に専ら従事する者以外のもの〔以下「組合代表者等」という。〕については、労働者災害補償保険法第27条の第一号及び第二号に掲げる者として当該労働組合の使用する労働者〔一によって労働者とみなされる者を含む。〕に係る保険関係に基づき、同法第28条の規定により特別加入することができるものとして取り扱うこと。
    したがって、組合代表者等が特別加入するためには、労災保険事務の処理を労災保険事務組合に委託することが前提となるが、この委託にあたっては当該労働組合の所在地が、原則として労災保険事務組合の所在地を中心として労働者災害補償保険法施行規則第六条の二第三号に定める区域内にあることを要する。
三 この通達の適用を受ける者のうちには、代議員、中央委員等名称の如何を問わず労働組合の意思決定機関を構成する者は含まないものであること。
四 労働組合に支部等の下部組織がある場合には、当該下部組織ごとに一事業単位として取り扱うこと。
なお、組織的にみて独立性のない下部組織については、当該労働組合上部組織の保険関係に包括して取り扱うこととなるが、このような独立性のない下部組織がある場合には、保険料報告書とは別個に、当該労働組合の下部組織の名称、所在地及び労働者数を記載した文書を届け出させること。また、この届出後に内容の変更、追加が生じた場合には、その都度速やかにその旨届け出させるよう指導すること。
五 一によって労働者とみなされる者については、その報酬、手当等を賃金とみなして取り扱うこと。
六 この通達の実施に伴い、昭和33年7月12日付け基発第452号通達を廃止するものとするが、すでに労働組合の代表者及び組合役員について保険関係の成立しているものについては、昭和44年度末まで従来どおり取り扱って差し支えないものとする。
  なお、この場合においても、関係労働組合に対し労災保険事務組合の認可申請手続き、事務委託等について指導のうえ、昭和45年度よりこの通達による取扱いに切り替えること。
〔昭44・3・7 基発第112号〕
 

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