大塚労務管理事務所    

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平成22年4月9日 研修会報告 日光 千姫物語

 
 
       山吹も咲きました。
 
 
 「労働保険審査会、移送を経て過労死が認定された事例」

 被災労働者(男・40代後半)は、昭和62年頃からAゼネコンの施工図の作図業務をおこなっていた。
 平成15年7月頃から大手自動車メーカーの工場建設の施工図作図に携わっていた。
 平成16年初冬、竣工式の当日、現場の設計管理室でパソコンを開いた机の脇で「脳幹出血」で倒れ、病院へ搬送されたが、当日死亡。
 この事例では、「労働者性」「業務起因性」が焦点となったが、U監督署長は不支給処分、審査官も「棄却処分」となり、再審査で「移送」されていないとの理由で処分され、S労働基準監督署が再度、取り扱うこととなった。

 1 労働者性
  労災保険の保険給付の対象となる「労働者」は、労基法第9条に規定されるとおり「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」とされている。したがって、雇用の形態の別は問われない。しかし当ケースのように外形的には、委任を受けて業務を行う者が労働者に当るか否かは、使用従属関係があるかどうか個別に判断されることとなる。
 (1) 『使用従属性』に関する判断基準
 @ 「指揮監督下の労働」に関する判断基準
 ア 仕事の依頼、業務指示などに対する諾否の自由の有無
 イ 会社による業務の具体的内容及び遂行方法に関する指示の有無、業務の進捗状況に関して本人からの報告等による把握・管理している事実の有無
 ウ 勤務時間に関する定めの有無、本人の自主管理及び報告による「使用者」の管理の有無
 エ 当該業務に従事することについての代替性の有無
 A 報酬の労務対償性の有無
 (2) 労働者性の判断を補強する要素
 @ 事業主性の有無
 ア 自宅に設置する機械、器具等の規模や所有関係
 イ 報酬の額(正規従業員と比較して著しく高額か否か)
 B 専属性の程度
 ア 他社の業務に従事することの制約性、困難性
 イ 報酬の生活保障的要素の有無(固定給部分の有無等)

 
 
 2 業務に起因する明らかな疾病に該当するかどうか
  労災が認定されるためには、労働者が罹患した疾病が労働基準法規則別表第1の2「その他の業務に起因することが明らかな疾病」に該当することが必要である。当ケースにおいては、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について(平成13年12月12日基発第1063号)により判断されることになる。

 なお、審査会は、本件については、被災者が会社関東支店の労働者であったか否かを更に検討した上で、本件に係る遺族補償給付及び葬祭料の支給の可否を判断すべきであったと判断される。
 イ 請求人は、被災者が本件工事現場で本件疾病を発症したため、当該現場を管轄する監督署長に請求書を提出し、再審査請求書の理由書においても、所長等の指揮監督を受けていた旨の主張も一部みられるが、提出されている各種資料や本件公開審理における発言等から、真意は、工事現場であれ、会社関東支店設計課であれ、所属にかかわらず、会社の労働者として本件疾病を発症したと主張していると認められること。
 しかし、監督署長においては、管轄下の本件工事現場の労働者か否かの観点からの調査検討に限られていること。
 ロ 施工図作図業務等に係る約定書は、生産設計課長との間に締結されており、開始日が平成11年5月1日の約定書から工事現場毎ではなくなり、また、開始日が平成13年4月1日の約定書からは、1年契約となっていること(乙第24号証)。
 実際の業務も、被災者が作図に関係していた工事報告書を見ると、各工事が連続して、あるいは重複して行われていること。
 ハ 工事現場の施工図作成については、現場所長から生産設計課長に依頼され、生産設計課長が約定書に基づいて被災者らに依頼がなされるものであること。
 ニ 被災者らは、会社関東支店生産設計課の月極業者という位置づけであり、報酬の請求書及び自主的に提出していたとされる業務日誌は、いずれも会社関東支店生産設計課に提出され、支払いも会社生産設計課からなされていること。

 
 
 
 
    五葉つつじ ヤシオつつじの白花
 
 
        すみれ
 
 
 3 ところで、労災請求については、労働基準監督署長はその管轄地域内に所在する事業場の労働者か否かについては判断できるが、管轄地域外に所在する事業場の労働者であるか否かについては、これを判断する権限がないことから管轄地域外の他の事業場の労働者であるか否かを検討する必要性が認められる場合には、当該他の事業場を管轄する労働基準監督署長に請求を移送する必要があるところであり、このように移送をすべき場合にこれを行うことなく不支給処分を行うことは失当と言わざるを得ない。
  
本件の場合についてみると、会社関東支店は監督署長の管轄地域外に所在する事業所であり、本件について被災者が会社関東支店の労働者であったか否かを検討する必要性が認められるところであるので、監督署長は、本件を会社関東支店の所在地を管轄する労働基準監督署長に移送すべきものであったと判断される。

 U監督署長及び審査官は移送せず、判断し、不支給決定処分・棄却処分としたが、移送通知書を発行せず電話連絡するなど、今回の事例は「オソマツ」でした。
 Aゼネコンの専用作図者(労働者性)を否定する資料として、被災者が使用していたパソコンデータも、後日専門家が復元したところ、図面にAゼネコンと印字されていた。杜撰な調査で棄却処分とした内容が明らかとなった。
 「労働者性」について、民法の委任・準委任説で否定したり、工事関係書によるS監督署振り出しの労働保険番号も調査で一部確認できたにもかかわらず「移送」についての調査はしないまま、棄却処分をした。

 業務の過重性の具体的評価に当って@ 労働時間A 不規則な勤務B 拘束時間の長い勤務C 出張の多い業務D 交替制勤務、深夜勤務E 作業環境F 精神的緊張を伴う業務のような負荷要因について検討すること。
 長期間の過重について
 平成13.12.12.日基発第1063号で「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門調査会」の検討結果を踏まえ、認定基準を新たに定めた。
 1か月100時間を超える時間外労働、6か月を平均して1か月の時間外労働が80時間を超える場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること。

 一つ一つ丁寧に調査・聞取り・関係者の助言を整理していたこと。循環器系疾患の労災申請には欠かせないことで非常に参考となる方法である。
 1 発症までの概要 2 通常の作業及び作業環境 @ 労働時間及び休日 A 業務の内容 「施工図作図業務」「建築主、設計事務所との打合せ」「関連業者との打合せ」「その他の業務として」定例打合せ会議への出席、現場監督との打合せ、新しい次の現場の打合せ会議への出席、現場内部の打合せ、支社の行事への参加 B 作業環境 3 業務経歴 4 発症日当日の状況 5 発症日前1週間の状況 6 発症前1か月の状況 8 健康状態 既往歴 9 私生活について 「家族」「嗜好」「性格」「ストレス」「友人関係」「趣味」「スポーツ」「農作業」 10 労働者性について @ 仕事の依頼、業務上の指示等に対する諾否の自由 A 業務遂行上の指揮管理があるかどうか B 勤務場所時間が指定され管理されていたか C 労務の提供に代替制があるかどうか D 賃金の支払いについて E 専属性があるかどうか F 機械器具の負担関係について 11 結論
 これが代理人の申立てた順番でした。

 平成21年3月31日 S労働基準監督署より労災認定の電話連絡。参考として「約定書」が決定理由の一つであった。
 平成21年5月1日 遺族補償年金・遺族特別支給金一時金・葬祭料の支給決定通知書が届いた。

 

09.7.28 労働基準広報 労働スクランブル
    〜日本看護協会初の全国調査からみえてくるもの〜
     過労死予備軍2万人の看護師の実態

 
 
      町内の盆踊り
 
 
 いま、働き方が問われている。とりわけ、超がつくほどの長時間残業に加え、リストラ、パワハラ、成果主義といった厳しい労働環境の下で、働く人たちの疲弊が気にかかる。管理職をはじめ、IT技術者や長距離トラックドライバー、看護師・勤務医など挙げれば切りがない。なかでも、過労死予備軍2万人という看護師の勤務実績を追ってみると――。

 昨年秋、東京地裁と大阪高裁で相次いで看護師の過労死が認定された。24歳と25歳の若い看護師の死である。
 東京地裁の事件は、当直明けに意識不明となり、致死性不整脈(推定)とされた。月80時間の残業に、深夜の交代制勤務など不規則な勤務体制が認定の根拠とされた。
 大阪高裁の事件は、帰宅後に、くも膜下出血を発症した。病院での残業時間は月80時間を下回っていたが、不規則な夜間交代制勤務など質的な過重性が根拠とされた。

 
 
 連日の深夜帰りで疲労困憊 月60から80時間の残業は異常
 月に60時間から80時間の残業とは、どういう実態にあるのかを考えてみたい。
 労働基準法には、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない」とある。
 1日8時間×5日勤務の40時間労働が原則。これが週60時間労働ということは、毎週20時間の残業を繰り返していることになり、月にすると優に80時間を超える。
 週20時間の残業時間を週5日勤務でみると、月曜日から金曜日まで、毎日平均4時間の残業をしていることになる。1日平均8時間の所定労働時間に、4時間の残業を加えて、毎日12時間労働というわけだ。
 午前9時出勤であれば、休憩1時間を入れて、午後6時までが通常勤務。これに残業が4時間だと、午後10時の退勤となる。
 これには、通勤時間が入っていない。仮に通勤1時間(片道)とすると、午前8時前には自宅を出て、帰宅は早くても午後11時台となる。首都圏など通勤圏が広いサラリーマンの場合、片道2時間通勤となると、午前7時前に自宅を出て、帰宅は早くて連日午前0時の深夜帰宅となる。
 在宅時間は、午前0時から午前7時までのわずか7時間。これでは、睡眠時間を削る以外に、家族との対話の時間もとれない。EU労働時間指令にみる、勤務をおえて、次の勤務までの休息時間を11時間とることは、不可能だ。いい仕事をするには、頭と身体を休め、休養とバランスの良い食事に、運動が不可欠だとすると、残業を含め週60時間労働は、異常といわざるを得ない。
 過労死認定の判断基準となる月に残業80時間あるいは100時間を超えるようでは、身体を壊さないほうがおかしい。まさに、働き方が厳しく問われているといえる。
 上記の看護師の勤務実態は、これを証明したものだ。
 6月8日に厚生労働省が発表した2008年度・心臓疾患及び精神障害に係る労災補償状況を見ても、過酷な勤務で、過労死や精神障害・うつ病を発症し、自殺するなど労災請求件数、支給決定件数ともに、依然として高水準にある。
 
 
 
 
         笹飾り
 
 
        お囃子も元気!
 
 
 高裁が過労死危険レベルと判断 交代制勤務に時間外60時間は
 そうした中、(社)日本看護協会が看護師の「時間外勤務、夜勤、交代制勤務等緊急実態調査」をしたところ、病院勤務看護師約82万人のうち、約2万人が過労死危険レベルの勤務をしていることが明らかになった。入院患者を前にして、命を預かる第一線の看護師は、残業、夜勤、深夜交代勤務などの繰り返しで疲労を自覚、医療事故の不安を抱いていることもわかった。人命を預かる第一線の凄まじい看護師の勤務実態は見過ごすことのできない重要な問題提起と警鐘を鳴らすものと受け止めたい。
 調査は、昨年末から今春、全国の看護師1万人を対象に実施、3010件の回答を分析したもの。こうした全国調査は初めて。
 回答者3010人のうち、交代制勤務(2交代・変則2交代、3交代・変則3交代)をしているのが1728人。この交代制勤務者の4.3%、74人、約23人に1人が月60時間を超える時間外労働に就いていた。
 大阪高裁が過労死危険レベルとした交代制勤務者で、かつ時間外労働が月60時間以上の看護師の比率は、全回答者3010人のうち、2.46%に相当、これから推計して病院勤務看護師82万人のうち、約2万人が過労死危険レベルにあるとした。
 3交代制勤務者の3分の2が、勤務と勤務の間隔が6時間以下となることがあったと回答している。ここにも、EU労働時間指令でいう休息11時間の半分もとれないでいる実態が明らかとなった。2交代勤務者のうち、「仮眠が取れないことが多かった」(18%)、「取れないことがたまにあった」(26.2%)、「仮眠の時間が設けられていない」(11.1%)など、休息も仮眠も不十分な状況にあることも分かった。
 年齢別では、20歳代の看護師に長時間労働が目立ち、疲労感を訴える比率が高く、過酷な勤務から現場を去ると、2度と戻ってこないというジレンマも描きだされた。希望を持った若者が職場を去ることなく、働き続けられる環境づくりが緊急の課題であることをこの調査は提起している。
 白衣の天使に憧れを持つ女の子たち、入院を経験し、看護師さんのやさしく、てきぱきとした対応、病を克服して退院する喜びを看護師さんの姿に重ね合わせて、将来、看護師になりたいと希望する女生徒たちは多い。それだけに、安全で質の高い看護をどう提供できるか課題は多い。
 患者の安全と健康維持は、医療従事者の安全と健康維持なくしてあり得ない。いまもっとも過酷な勤務実態にある看護師の姿に感謝しつつ、看護師の確保とその改善へ国民1人ひとりが声を挙げる必要が高まっているといえる。これを機に、あなたの職場に過労死予備軍が巣くっていないか検証してみては如何であろう。
 労働評論家 飯田 康夫
 

09.2.23 労働基準広報 労務相談室
    Q 製造部門の派遣労働者 期間満了前に解除は違法か

 
 
 フキノトウが早くも顔を出していました。
 
 
 労働者派遣に関してお聞きします。当社では、製造部門において、約100人の派遣労働者を受け入れています。
 派遣元との派遣契約期間は、今年度末までなのですが、昨今、急激な景気の悪化により、受注量が大幅に減少したため、契約期間満了を待たずに、派遣契約を解除したいと考えております。
 派遣労働者の雇用主は派遣元であり、あくまで派遣契約の解除ですので、解雇には当たらないと思うのですが、法的に何か問題はあるのでしょうか。
 A 団交要求無視は不当労働行為とみなされる可能性も
 団体交渉要求を無視すると不当労働行為となるリスクや黙示の雇用契約と評されるケースも希にあります。また、派遣先指針に対応した責務を果たすことが行政対応上も必要です。
 
 
 (1)派遣先指針の対策(行政対応)
 現在問題となっている、いわゆる「派遣切り」の問題は、そもそも派遣契約自体が派遣元・派遣先間の会社間取引であるため、派遣先としては、通常の取引同様に契約解除を行うことができると考える向きもあるようです。しかし、派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号、以下、「派遣先指針」)においては、派遣契約の中途解除の際に派遣先が配慮すべき責務が定められています。
 すなわち、派遣先は、中途解除を行う場合においては、@労働者派遣契約の解除の事前の申し入れ、A派遣先における就労機会の確保、B損害賠償等に係る適切な措置、C解除理由の開示を行うべきとされています。
 まず、@は、派遣契約期間中に解除によりこれを終了させようとする場合には、できる限り派遣元との話し合いを行った上で解除の30日前に予告を行うべき、解除申し入れはそれより以前にすべきとするものです。
 次に、Aは、当該派遣先における労働者は派遣受け入れの必要がなくなったとしても、派遣先は出来る限り、関連会社等での就業をあっせんすべしとするものです。
 また、Bは、@を受けて、契約解除の予告は少なくとも30日前に行うべきとし、予告を行わない場合には、速やかに30日分の賃金相当額の損害の賠償を行うべしとするものです。
 最後に、Cは、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除を行う理由を当該派遣元事業主に対し明らかにすべしとするものです。
 上記責務は、実施義務が法的に課せられているものではありませんので、これを怠ったからといって法違反に問われるものではありません。
 もっとも、近時は、社会的関心に対応して、行政も対応を強めており、上記責務を行ったか否かを報告するように求め、これが実施されていない場合には、「派遣法の趣旨に反する」などとして指導がなされるケースがあります。
 そのため、上記責務を果たす場合には、行政に対する報告を見据えて、具体的にどのようなことを行ったのか、記録化しておくことが有用でしょう。
 なお、行政指導を受けても、法違反ではありませんので、罰則はありませんが、後の団体交渉などで糾弾される要因となってしまいますので注意して下さい。
 (2)一部解約の場合
 上記の中途解約型の例の応用例として、ご質問の事例において100人中80人分の派遣契約を解除する様な場合、残す20人について派遣先が指定することは、派遣法26条7項の「派遣労働者を特定することを目的とする行為」の禁止に抵触するため、注意が必要です。
 (3)団交リスク
 派遣労働者の場合、派遣先の組合には加入できないため、派遣先に対して団体交渉を求める場合は、外部の労働組合に加入することになります。
 この場合でも、原則的には派遣先・派遣労働者間に雇用関係が存在しないため、派遣先には団交応諾義務がないといえます。しかし、例外的に最高裁は、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて右事業主は同条の『使用者』に当たるものと解するのが相当である」(朝日放送事件 最高裁判所第3小法廷 平7・2・28 判決)ともなるので、組合の要求事項毎に判断を行う必要があります。
 (4)労働委員会・訴訟リスク・事実上のリスク
 最後に、団交が決裂した場合やそもそも応諾しなかった場合には、不当労働行為の救済申立として各都道府県の労働委員会に組合から申立が有り得ると共に、事実上ビラまきや街宣活動などが行われる可能性があります。また、組合員が独自に訴訟を提起してくる可能性もあります。
 以上、(3)・(4)のようなリスクもあることから、派遣先指針で述べられている派遣先の責務を果たすことが重要であると言えるでしょう。
 
 
 
 
 まわりは少ないが雪原です。
 
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